ヒゲの家のヒゲの部屋

敬虔なゆずソフト信者による雑記ブログ。多分感想記事が多い。この人エロゲの話ばっかりしてるよ・・・。

『天使☆騒々RE-BOOT!』感想。おかえりゆずソフト!!ちょっと髪型変えた?

どうも、緑のヒゲです。

あれから三年が経ちました。

三年って結構長いですよね。あっという間でした。

 

 

あれ今なんか一瞬で矛盾したな。

 

 

さて、下らない前置きは置いといて、わざわざこんな辺鄙なブログにお越しの皆様には最早説明する必要も無いでしょう、今回はこちら

『天使☆騒々RE-BOOT!』の感想を語っていこうと思います。

ちなみにいちいちこのタイトル全部打つの滅茶苦茶めんどくさいので以降ずっと天使騒々って言います。ごめんよ。

共通

細かいことは各キャラクターの感想に任せると致しまして。

全体の印象として、ファンタジーを織り交ぜつつしっかり話の地盤を固めていく手際の良さが「あ、ゆずソフトだな」と感じさせてくれて、とても安心感が有りました。

所々シリアスな空気を挟んで引き締めつつも、根本的にはヒロイン達との生活を楽しみましょうって雰囲気。つまりはいつものゆずソフトですね。

そうです。これなんですよ。こういうのでいい。

これで良いんですよゆずソフトは。

「面白い」とか「意外」とか「斬新」とか、そういうのは別に良いんです。

そういうのは他にいくらでもあります。

でも、遊んでいて感じる多幸感と言いますか、そこはかとない「幸せ」。これはゆずソフトにしかないんです。ありがとうゆずソフト。(※筆者はゆずソフト信者の為、認識に極端なバイアスが掛かっている可能性があります。あまり参考にはしないで下さい。)

 

個別√感想 攻略順

 

 

来海√

この人の頭の中マジでピンク色だ!!!!!

初っ端から可愛いのが来ました。ギャルですよギャル。なのに成績優秀だし、割と何でもそつなくやれるし、本当にすごい子です。

それでいて気配りも出来て、誰とでも仲良くなれる。万能さと言いますか、単純なスペックはゆずヒロインの中でも一二を争う高さだと思います。

あと乳首の大きさもゆずヒロインで一二を争いますね。個人的激推しポイントです。

√の内容で気になったのは、やはり後半の尺がヴェガに持って行かれている点でしょうか。

√固有のサブキャラに尺を取られてヒロイン本人と全然イチャイチャ出来てない!っていうのはすごく覚えがありまして『サノバウィッチ』の紬√にすごく似た構図ですね。

ただ来海はその辺の反省も踏まえたのか、来海本人とのイチャイチャにもしっかり、しっかり、しっっっっっかりと尺を取ってあったので、少し気になった程度ですね。むしろ、個別の中にもちゃんとシナリオが組み込んであって良かったなと思えました。

小雲雀来海というキャラクターが持っている優しさや思慮深さを軸にしたシナリオだったので、ちゃんとにキャラクターに深みが出てかなり良かったですね。

 

 

かぐ耶√

 

エロ枠って聞いてたんですけど、ここまでガッツリしっかりエロ枠のお姉さんだとは思いませんでした。自分でドスケベボディとか言っちゃうお姉さんですよ。えっち過ぎです。好き。

共通√では基本的にオリエと2人で設定の説明役みたいな扱いをされていたせいもあって、個別入ってすぐ夜這いしてくるのは違和感というか気が早い印象を受けたのだけは少し気になりましたが、一応作中で「魔王への憧れ」というフォローが入っていたので十分許容範囲内かなと。

かぐ耶は異世界人でしかもお姫様ということで√内では異世界でのお家騒動のゴタゴタが主な内容でしたが、ぶっちゃけこの作品はかぐ耶と乃愛が強過ぎるので結構あっさりどうにかなって、残りの尺が全部イチャラブに当てられてたのが良かったですね。

異世界!とか、王族!とか、話を重くしようとすれば幾らでも出来ちゃう設定のヒロイン(名前も「かぐや」だし)だったので、いくらゆずソフトと言えど上手く幸せな着地が出来るのかなと心配したりもしましたが、いざ蓋を開けてみれば夜這いしてくるわ孕まセックスしたがるわ異世界間通い妻になるわでお前あの重そうな設定はなんだったんだ!と安心しました。

 

 

天音√

この娘はねーーーちょっとねーーーー。うん。思うところが結構ありまして。

キャラクターとしてはまあ、可愛くないわけでは無いんですよ。生意気な態度を取るのも兄にだけで他人に対してはちゃんと真面目な対応をしてますし、しっかり思いやりもあって良い娘です。

特に来海に対しては自分と合わないところがあるのを認めつつも、良い距離感を見つけようと努力してるのが好印象。

あとこの子だけ目の虹彩がハート型なんですよね。正直これはかなり可愛いです。

ただその、やっぱり「実妹」っていうその一点が本当に脚を引っ張ってるなと。そういう印象を受けました。

この娘ね、なんというか「ゆずソフトのヒロイン」に向いてないんですよ。

ゆずソフトって、可愛いヒロイン達と思う存分イチャイチャラブラブして幸せな気持ちになりましょう!っていう作風じゃないですか。

でも天音って実妹なので、常に倫理観が邪魔をしてくるんです。イチャラブと幸せがイコールで結べないんですよ。

「血の繋がった妹とセックスする、結ばれる」事って、現代の世間一般的な認識として「禁忌」なんですよね。とりあえずこの時点で既に尋常じゃない不安があるじゃないですか。

しかもこの不安って、原因を取り除けるような不安じゃないんですよ。漠然とした、それでいて、確実に存在する、自分たちは社会に受け入れられないだろうという純然たる事実から来る「不安」です。

こんなの普通のエロゲでも重たいテーマなのに、よりにもよってゆずソフトでこれをやるのは無理があるんですよ。

実際、天音√だけは作中で一度もデートに行ってないんですよ。家の中で隠れてセックスするだけ。

外で誰かに見られたらマズいから。

関係が世間にバレたらマズいから。

こんな、いつ崩壊するかも分からない禁断の関係を見せられて「幸せだな」って思えるわけ無いんですよ。

 

しかも、そんな一線を踏み越えた関係の割に、主人公の想いが軽過ぎます。

天音に関してはまあ良いでしょう。幼い頃からそうだったと言われれば、想いが募りに募ってこうなったんだと思います。

でも主人公はそうじゃないじゃないですか。実際、天音のオナニーを目撃した時も、完全に困惑してたじゃないですか。

それがどうしてあっさり天音のことやっぱり異性として好きですって話になるのか。

天音の恋愛感情が家族として過ごして来た積み重ねの結果なら、主人公の親愛感情も家族として過ごして来た積み重ねの結果なんですよ。

それがどうして主人公だけその積み重ねがそのまま恋愛にすり変わるのか。そのすり替えが出来ないから天音は悩んでるのに。

この辺がね、自分としては納得出来ないというか。

感情の処理が雑なんですよね。このテーマを真面目にやりたいなら主人公の想いはもっと真面目に描写して納得感のあるものにしておかなきゃいけないし、そんな重い話にしたくないのならそもそもシナリオの中でそういう「不安」を感じさせちゃいけないんですよ。

同じ倫理観の問題で『天色*アイルノーツ』も自分はあんまり好きじゃないんですけど、あの作品は少なくとも作中に「不安」は無かったんですよ。

なんやかんや丸く収まってたじゃないですか。

教師が生徒と付き合ってるのが周囲にバレまくってるので読み手側が「淫行教師なのバレてるやん」って不安なのは変わらなくて自分には合わなかったんですけど。

天音√もそんな感じになるのかなと思ってたら、なんかすっごい真面目に天音も主人公も悩むんですよ。驚きました。

そこで悩むのならそもそも主人公は悩んで悩んで悩み抜いてから天音の気持ちを受け入れなきゃダメなんですよ。一発セックスしたからハイ好きーじゃないんですよ。

天音√に対してあまりにも納得感が無いの、主人公が全然葛藤してないからなんですよね。

さっきも言った通り、真面目にやるなら真面目にやる、真面目にやらないなら上手いこと流す。

どっちのスタンスにするかを明確に定めたシナリオにして欲しかったですね。いや、多分ゆずソフト的には真面目にやったつもりなんでしょうし実際真面目だったとは思いますけど、その真面目さを裏打ちするための主人公の「想い」が足りないと思います。

勘違いして欲しくないんですけど、真面目な話をするなって言ってるんじゃないんです。

真面目にやるならちゃんと全編でやりきってくれって言ってるんです。

話の大筋はしっかりしてました。着地も、まあこうならざるを得ないでしょう。

むしろよく頑張って着地したなとすら思います。

でも、でもね。

さっきも言いましたけど、主人公の想いがこのシナリオの真面目さと嚙み合ってない。あまりにも弱すぎる。ここが本当に残念なポイントです。

 

風実花√

大好き。

 

 

 

 

 

 

 

ごめんなさい。

ただでさえ拙い語彙力が無と化してました。

この人はさきほど語った天音√と割と似たような構図で主人公と結ばれるためには倫理的な問題があるんですが、そこの処理が割と上手くて気にならない、素晴らしい内容でした。

天音√の内容を従来のゆずソフトメソッドでやるならこうすべきだった、という好例のようなキャラクターですね。というか、同じゲームに2人もそんなヒロインが居ると被っちゃうから天音の方を真面目にしようとしたのかな。

 

風実花さん、やってることはそりゃもう紛うことなき淫行教師なんですけど、基本的に主人公と恋愛してる時は「幼馴染み」を全面に押し出して来てて、ちゃんとスイッチの切り替えが出来てるんですよね。

「教師と生徒だから・・・・」みたいな葛藤も殆ど無く、極めて自然に「バレちゃダメだから隠さなきゃね」と軽い感じでシナリオが進みます。

軽い感じというか、そもそもそういう話がほぼ出てこないというか。

 

天音√で言った「不安を感じさせたくないなら軽く流せ」っていうのはこういう事なんですよ。

風実花√は、やってる事自体は本当にヤバいんですよ。犯罪です。

でも、お互い本気で好きだから、幸せだから、深刻に捉えて無いじゃないですか。しかもアフターストーリーで描かれているように、風実花さんのスイッチの切り替えはほぼ完璧です。

こういう風に「大丈夫だよ、安心だよ、どうにかなるよ」って描写をちゃんとしてくれてるので、変な設定のノイズに邪魔されることなく、ゆずソフトの強みであるキャラクターの可愛さ、イチャラブを存分に堪能出来るわけです。

まあそれでも若干、読み手としては「大丈夫かな」と思わなくもないんですが、これはもう仕方ないですよね。そういう設定にしちゃってるので。

 

 

 

さてそんな風実花さんですが、もう、ほんとに自分の好みにド直球のキャラクターでして。

 

幼馴染み、好き!

年上のお姉さん、好き!

落ち着きのある雰囲気、好き!

 

年齢がどうこうと言うよりも、精神的な意味でシンプルに「大人」なのが凄く良い。オンオフの切り替えがちゃんと出来る人、好きです。それでいて自分がもう若くないことを気にしちゃってるのも好きです。最高です。

 

√の内容は・・・まあその、若干貞操観念がバグり散らかしてるなこの人って思わないことも無いんですけど、コンパクトながらもちゃんとデートしたりイチャイチャしたりで満足度が高かったですね。

デートもちゃんと意図して遠くまで行くことで思う存分楽しめてますし。

あと私服の露出度が高過ぎる。えっち過ぎでしょ。アカンでしょこれは。生徒が見たら卒倒するよ。好き。

 

今作で1番好きなヒロインですね。

 

というか喫茶ステラでも涼音さんが好きなんですけど、なんでこうサブヒロインにばっかり惹かれてしまうんでしょうか・・・。

サブっていうか、年上が好きなのかな。

そしてなぜ自分が好きになるヒロインはいつもシナリオが短いのか。オリエは結構長いのに・・・。

 

 

オリエ√

このゲームで1番好きなヒロインは風実花さんなんですけど、1番良かった√はどれかと聞かれると、オリエ√と言わざるを得ません。

もう、完成度が圧倒的です。

俺の身体が欲している「ゆずソフト」とは、つまるところこれなんですよ。

この√も主人公の勃起関連の影響で性的なステップアップが若干ぶっ飛んでるきらいはありますが(というか天使騒々はほぼ全員そう)それを加味してもかなり、丁寧に恋愛してたかなと。

些細なきっかけでお互いがお互いに惹かれあって、その後も交流を深める事でどんどん親密になっていく。

ゆずソフトの良い所が全部出てます。

今後「ゆずソフトってどんなブランドですか」という質問が飛んできた時、頭に浮かべるのはオリエ√になるんじゃないかなと思います。

特に印象的だったのは手帳の扱いでしょうか。

最初は事務的なことで埋まっていた手帳が、主人公との交流を通して・・。まあ家電の使い方で埋まるわけなんですけど、後半になるにつれてどんどん色ボケていくのがすごく可愛いですね。

主人公とやりたいことを列挙して全部書き留めるとか、ありがちですけどこれをオリエがやるとなんでこうも可愛いのか。

その内容を主人公が「全部やろう!」って言うのに対しての「一生かかりますよ」って返答も良かったです。

手帳の内容がそのままオリエの心境とリンクしているといいますか。

とすると、そもそも個別でオリエが使っている手帳は主人公がプレゼントしたものなので、手帳がオリエの心境とリンクしているとするなら、書き留めるまでもなくオリエの心は李空一色になっていると言えます。

粋な演出だなぁと。

 

異世界関連のゴタゴタとか、世界を越えた恋愛で大丈夫なのかなとか、その辺の火種も軽く処理がしてあって、深刻な雰囲気にならないのも良いですね。

 

 

乃愛√

現代の娯楽を謳歌する天使、良いですね。

乃愛は使命がある関係で割と四六時中主人公と一緒に居ますし、元々同じ家で暮らしてたりで距離が近いので恋人になってもそんなに変わらないんじゃないかなーと思っていたんですが、いや、実際に見せられると結構変わりますね。

使命による義務感で一緒に居るのと、望んで一緒に居るのとでは意味合いが大きく違いました。

 

というか同じ屋根の下で暮らしてるの普通にダメですねこれ。生活が爛れてしまう・・!

特に天音への被害が凄まじいですよね。声とか音とか。なんという気まずさ。

というか、来海√でも被害受けてましたよね天音。

なんか途端に可哀想になってきました。

天音、しっかり寝てくれ・・。

 

さて√の内容ですが、本当に文字通りの意味で堕天しましたね。設定的には乃愛も重い話がいくらでも出来るような設定なんですが、その辺はかぐ耶と同様で割とあっさり片付いてます。

主人公に前世があるように乃愛にも前世があるというのは良かったですね。うっすら話に出てきてた戦乙女がここで回収されるのかーと。

乃愛が現代の娯楽にどっぷりだった理由が二重底になっているのも面白いですね。

天使だからというのは表の理由で、本当はそもそも娯楽を知らない前世をだったからと。

キャラクターにまつわる深い設定が明かされることによって、今まで表層に出ていた性格や行動の裏付けが成されるギミックはとても好きです。

あと、共通√でクラヴィが暗躍したのは風実花さんの一件だけっていうの、自分はプレイ中その可能性を完全に見落としてたので「そう来るか!」と驚きました。

1番最後に乃愛√をプレイしたので、共通√の辺りの認識が完全に固まっちゃってたんですよね。それでちゃぶ台ひっくり返されて余計驚くっていう。

そこからのハッタリかました演劇もすごく良かったです。

今まで全てのことを外部から定められていた乃愛が、初めて自分で決めて選び取ったものが主人公との生活っていうの、物語の着地として鮮やかでした。

黒くなった羽根はその証なんだっていう最後の語りもすごく良いです。

ただ姿が変わるだけじゃなく、乃愛というキャラクターの心境の変化を表す作劇上の演出としても使われているのが面白いですね。

センターヒロインに相応しい内容だったと思います。

 

あと喫茶ステラが出てきたのがすごく嬉しかったですね。ドエロ谷さんも元気そうで良かったです。昴晴くんまだバイトしてるのかなぁ・・。

 

その他

三国彩里がドエロ過ぎる。

なんだこの女は。エロの塊じゃないか。

地味めの女の子がこんな大胆に迫ってくるんじゃないよ!えっち過ぎる!!

なんで指で乳首なぞってくるの!!反則でしょ!!!こんなことされたらその場で好きになっちゃうに決まってるだろ!!!!

三国さんに迫られるシーン、今作の・・いや、それどころか、これまで見てきたゆずソフトのエッチシーン全ての中でぶっちぎりトップに好きです。

エッチしてるとこじゃなくて、エッチに持ち込むために三国さんが全力で誘惑して落としに掛かってくるところが好きです。最高です。

ただ、これは行きずりの女がいきなり迫ってくるからこんなにやらしいのであって、心を通い合わせたヒロインと同じことをしてもあんまりえっちにならないって言うのがジレンマですね。

ゆずソフトでこんなシーンを見れるとは思っていなかったので、本気で驚きました。あと喜びました。

ただ、なんで自分性癖がコレなのにゆずソフトが好きなんだろうみたいなことはちょっとだけ思いました。ふむ・・・なんでだろうな?

しかも三国さん、このナリで乳首デカいんですよ。エロの塊だ。クラスであんまり喋らない地味めな女の子、胸もそんな大きいわけじゃない、でも乳首はデカい。もしかしたらコンプレックスになってるかもしれない。

エロ過ぎる。なんだこの子は。最高じゃないか!!

 

さて、操られていた時の話はこのぐらいにして、それを抜きにしてもこの三国さんの描き方ってすごく上手いなと思うんですよ。

別に何かエピソードがあったりもしないんですよ。

ほんっとにただの天音の友達、正真正銘サブキャラです。

でも、見た目の雰囲気とか、口調や話し方がちゃんと凝ってあって、この子がどういう性格の子なのか分かるんですよね。

三国さんってストーリー上必要な箇所でしか出てこない(当然)んですけど、その短い出番の中で最大限キャラクターが伝わるような台詞回しをしてあって、声の演技もそれに合わせてあるんですよね。

なのでなんて言うんでしょう、こう、語られずとも察せると言いますか。

主人公と話す時「あっ・・・」とか「えっと・・・」とかいちいち言っちゃって声も小さめだったり、でも天音と話してる時は普通に喋れてたり。

テキストで言わずともプレイヤーに感じ取って貰えるようにしてあるのが良いなと。

 

あと天音√で一瞬だけ登場する私服姿が超絶可愛いです。この為だけにわざわざ立ち絵の服装差分を用意してくれるとは。

ありがとうゆずソフト

裸立ち絵もください(強欲)

 

余談

このゲーム、ヒロインの個別√がほぼ全編夏休みじゃないですか。

夏休みに入って制服を着なくなる影響で、制服の立ち絵とセットになっている髪型を見る機会が滅茶苦茶減るんですよ。

この「制服を着なくなる現象」の影響を一番大きく受けてるのが来海で、この娘、メインビジュアルに使われてるデフォルトの衣装が制服なんですよね。

そのせいで来海は、夏休み、つまりは個別√に入って以降、ずっとメインビジュアルと髪型が違うんですよ。

なんなら来海は私服だけじゃなく水着でも髪を下ろしてるので、むしろ髪を上げてる方がレアまでありますね。

その影響でなんというか、広報の段階の印象と実際にプレイして受ける印象に大きめの乖離があるといいますか、少し勿体ない気がしました。

もうちょっと制服の来海も見たかったなぁと。

これは本当に余談なので、もっとこうしろとかそういう話でも無いです。

なんとなくそう思ったってだけ。

 

総評

気になる点もあるものの、素直に「おかえり」と言えるいつものゆずソフトでファンとしてはとても嬉しかったですね。既に次回作もR18での制作が決まっているという事で、これからも楽しみです。

あと三国さんの抱き枕カバーが欲しいので、風実花さんと合わせてどうぞよろしくお願いします。

ええ。是非とも。

 

それではまた。

 

 

それではまた、の「また」って一体いつになるんだろう・・・。

『オトメ*ドメイン』感想。「王道」を往く傑作。奇抜な設定を支える必然性の土台

どうも、緑のヒゲです。

このあまりの更新感覚の短さに驚かれている事でしょう。
一番驚いているのは勿論自分でありまして。

そもそもこのブログの更新間隔が異様に長い事を把握する程このブログをずっと読んでくださっている方など多分居ないんじゃないかなと思いますので、そういう意味では一番も何も自分しか驚いていないのかもしれませんが。

さてそんなわけで今回喋り倒すエロゲはこちら




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『オトメ*ドメインです。

このブログも完全にエロゲ感想ブログと化しましたね、と、これはこの前言いましたか。

まあ自分が喋り倒せることってそれぐらいしか無いので当然の帰結でしょう。

では今回も例によって例の如く、このゲームの詳しい内容は自分で調べやがれこんちくしょうの精神で概要の説明は全てかっ飛ばし、作品の感想を書き殴っていきましょう。



共通√

この作品が色々とぶっ飛んだ代物である事は公式サイトのあらすじとキャラ紹介を読んだ段階で分かっていたつもりでしたが、開幕のシーンでその辺の認識を軽く蹴り飛ばされましたね。

まだまだ自分の認識は甘かったんだと。

作品の開幕、主人公の目の前でペットボトルに放尿するヒロイン。もう、なんでしょう。ここまで来ると何を思えば良いのかも分からなかったですね。

ただこれは後で風莉√感想で詳しく話すんですが、この開幕のシーン、伏線なんですよね。

っていうか、共通√そのものが、ひいてはこの作品の骨格を構成する全てがしっかりと風莉というキャラクターの伏線になっていて、話題性を狙った単なる出オチでは無いって所がとても素晴らしいですね。

この作品においてそれは滅茶苦茶だろってなる要素は湊くんの可愛さぐらいですので。

冒頭のシーンだけで随分と喋ってしまいましたが、冒頭に限らずこの共通√、侮れない出来をしています。

結局の所この共通√で何が描かれたかと言うと、男なのに女装して女子校に編入した挙句女子寮に入るなんていうとんでもない自体に直面した主人公こと湊くんが、その事態、その生活を受け止め、ある程度自分で納得出来る所まで折り合いを付けるまでの過程なんですよ。

そもそも。
男が女装して女子校に編入って、もう端から端まで問題しか無いんですよ。
問題っていうかもうほぼ犯罪ですね。
そんな犯罪的な事態に対して「こうなったからには仕方がない」みたいに開き直られると困るんですよ。

どんなに開き直られようと、それが犯罪であることは変わりないわけで。
そんな犯罪を「仕方ない」で流されてヒロインとイチャイチャされましても、いやいや待て待てってなるわけです。

ちなみにこういう大きな問題を「仕方ない」で流された結果自分が受け入れられなくなったゲームがゆずソフトの『天色*アイルノーツ』でなのですが、このゲームに関してはまた機会があれば話すとしまして。

この共通√が描いているのは、その問題に対するシナリオ上でのフォローなわけですね。

地の文でも度々「こんなのは正しくない」「皆を騙している」と葛藤している湊くんが、共通√の終盤ついにその罪悪感に耐えられなくなり、黙って寮を出ていこうとする訳です。
そんな中、寮に住む面々が湊くんのことを受け入れて、この学園こそが湊くんの居場所である事をサプライズパーティを通して湊くんに伝えるわけですね。

そもそもなんですが、物語開始時点の湊くんは唯一の親族であった祖母を亡くし天涯孤独となったばかりでして。
それに加えて前述した問題による葛藤や自己嫌悪、罪悪感を常に抱えて生活している訳で。

こんな状態で、他人に対して愛だ恋だと考えるような精神的余裕がある筈無いんですよね。

そんな湊くんに対して、同じ寮の面々であるヒロイン達が救いを与える。
この一悶着によって湊くんの精神的な安定が担保され、ヒロインとの恋愛を意識出来るようになるわけですね。

それと同時に、この作品において湊くんが恋人として選ぶキャラクターがこの三人の中の誰かである事への理由付けとしても機能します。
自分を救ってくれた存在がこの三人なわけですから。

このイベントで、後に続く個別√、各ヒロインとの恋愛に対する土台が出来上がるわけです。


またこの最後のイベント以外の部分でも、この共通√はしっかり各ヒロインの個別への準備を着々と進めています。

風莉が湊に対して無防備過ぎるのがそうです。
湊が寮の家事をたった一人でほぼ全て引き受けているのもそう。
ひなたがやたらと昼食を湊達と一緒に食べたがるのもそう。

特に風莉周りはとても丁寧です。
その辺りは風莉の項にて。


とにかく全体的に「個別√へ繋げるための土台作り」に終始しています。

というか本来個別√の役割っていうのはこれだと思うんですけど、これを実際にちゃんとやってくれるだけでこんなに違うものなんだなと改めて感じますね。

直前に書いた『金色ラブリッチェ』の記事でも再三触れましたが、物語って言うのは兎にも角にも土台が重要だと自分は思っていて。
土台がしっかりしていると、説得力が違いますからね。

その辺のあれこれに関しては『金色ラブリッチェ』の記事を読んでくださいと丸投げの宣伝を挟むことにして、続いてはそんなしっかりした土台の上で繰り広げられる個別√の感想へ参りましょう。





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ひなた√

とりあえず、なんと言ってもしっかり可愛いですね。これだけでも凄いことです。キャラクターが可愛いというのは当たり前のようでいて、実際はそれ一つだけでもブランドの売りになる重大な要素です。

その上この「大垣 ひなた」というキャラクターを形作る要素それぞれにキチンとした理由付けがあり、その理由自体も物語と深く関わるような要素であるのが大変印象が良かったですね。

例えばひなたを語る上で真っ先に出てくる要素である所の「厨二病」ですが、これは昔、親の人形として生きていく以外に生きていく術を見つけられなかったひなたが初めて手に入れた自我、アイデンティティなわけです。

そんなひなたと共に過ごすうちに湊は惹かれ、紆余曲折を経て・・・本当に紆余曲折を経て恋人になる訳ですが、この先がまた良かった。

かつて自分にアイデンティティを齎した友人との再会を経たひなたは、自分と違い厨二病を卒業していた友人を目の当たりにし、心の拠り所であった「厨二病」という自我が揺らいでしまう訳ですね。

そもそもひなたが厨二病であった理由のひとつは件の友人との関係が前提としてあったわけなので、それが揺らいでしまった今、ひなたは厨二病で居ることそのものに意味を見いだせなくなります。

その結果、厨二病を卒業しようと試みるひなたですが、そもそも厨二病というのはひなたの自我そのものなわけで、厨二病を捨てるという事は自我を捨てることと同義です。

そして、湊が恋をしたのはひなたの外見や身体ではなく心、自我の部分な訳で。

自我を捨て「人形」に戻ったひなたを受け入れられなかった湊は、ひなたに自我を、厨二病を取り戻してもらうために一つの行動を起こします。

ひなたの厨二病を全面的に肯定し、かつてひなたの厨二病仲間が担っていた「ひなたが厨二病で居る理由」を、湊自身が担うという選択です。
ひなたにとって厨二病とは自我である事から、この湊が齎した厨二病の肯定は、ひいては「ひなたの自我を肯定する」ことに繋がるわけですね。

今まで大多数の人間にとって疎まれる要素でしかなかった厨二病という自我を肯定して貰えたひなたは、晴れて厨二病を、自我を取り戻し、湊と共にこれからを歩んでいくと。


綺麗に纏まった物語です。特に秀逸なのはやはり、大垣ひなたというキャラクターを構成する大きな要素である「厨二病」に対しての背景がしっかりしている所でしょう。

特に「なぜ厨二病になったのか」と「なぜ厨二病を辞めないのか」の二点に対する回答がしっかり示されていて、後者の「なぜ辞めないのか」の理由が揺らいだ際に本当に辞めてしまうというのがシナリオ展開の理由付けとして凄く良かったですね。




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柚子√

『青春フラジャイル』の記事でも書いた事があるんですけど、自分は無自覚に迷惑を振りまくヒロインが全体的にダメなんですよね。
その例に漏れず柚子もそんなに好きでは無いんですけど、お話自体は良く出来ていましたね。

特に良かったのは、この√もひなたと同じくシナリオ展開の理由付けやキャラクター背景の理由付けがしっかりしていた点です。

柚子にずっと持ち込まれているお見合いの話なんかは本当に良かったですね。
政略結婚の駒という重い理由をチラ付かせておいて、その実本当の原因は柚子の家事が壊滅的である事で、お見合いは完全に親からの思いやりだったと。

親の心子知らずとはまさにこの事。

またこの柚子√と先程のひなた√はシナリオの面で鏡合わせの側面がありまして。

例えばひなた√では、湊は自分が男であることをそこそこの中盤になるまで言い出せず思い悩んでいる訳ですが、対する柚子√では√の開幕で柚子に言い当てられてしまったり。

また、ひなたという柚子はそれぞれ「家事が壊滅的」「重度の厨二病」という、厄介気味のキャラ付けがされているわけですが、ひなた√では、ひなたの厨二病は欠点では無く個性であると「肯定」する物語であるのに対して、柚子√は家事が壊滅的である事を明確な欠点として「否定」し、出来るように努力するという物語になっています。

こういう物語構造の対比は大好物なので、そういう面でも良い作品です。

その花嫁修業を通して普段湊が当然の様に担ってくれているありとあらゆる寮の家事の大変さ、ひいてはその思いやりを理解出来るようになるというのも、湊が家事を担っていることを共通√から長らく描写し続けていたのが存分に活きています。
美しいですね。

そしてその説得力が、柚子自身が√後半で抱く「私では湊を幸せにしてあげられない」という思いに対する裏打ちとしても機能する訳です。
お話の流れが単発エピソードの繰り返しじゃ無いんです。ちゃんと大きな流れで全部繋がってるんですよね。

またこの√を語る上で絶対に外せない要素、風莉の存在も本当に良かったですね。

物語中盤にコメディの一貫のような流れで登場しそのまま新聞部のカメラマンとして収まる盗撮犯ですが、その時に張っておいた「盗撮写真の受け渡し先」という伏線をここぞという場面で回収してくる訳です。

ここのイベントは本当に良かったですね。
柚子√のシナリオを動かす意味でもそうですが、このイベントが風莉√への布石になっているのも手際が良くて美しい。

盗撮写真が発見されたのは柚子が湊と恋仲になる前で、それはつまり風莉はずっと前から湊の事が好きだったという事になります。

大切な友人の片想いを台無しにしてしまった罪悪感と、湊と自分ではとても釣り合わないという諦観。

この二つの挫折が、柚子に対して「学校を辞めて親の言う通りに結婚する」という、人生を揺るがす大きな決断をさせるわけですね。

この、決断の理由が一つではなく二つというのも良いですね。
恋人と友人、学園での柚子を支える二つの柱、その両面で柚子は挫折したわけです。

片方だけであれば、まだもう片方を心の拠り所にしてゆっくり乗り越えられたかも知れませんが、両方一気に来た事でどこにも寄り掛かれなくなってしまった。

この作品、ひなた√の時もそうでしたが、柚子√においてもヒロインは割と本当に精神的なドン底まで落ちるんですよね。

そしてそれを迎えに行くは我らが湊くん。

前述した「親の心子知らず」を、この最後の場面で明かすのも、物語のオチとしての側面は勿論のこと、その前の柚子の絶望との対比で一気に気が抜ける演出として良かったです。

ヒロインの事をそんなに気に入っていなくても、その物語自体がちゃんと作り込まれていれば、ある程度しっかり楽しむことは出来るんですよね。

ストーリーテリングって、大事。
当然ですけど。





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風莉√

いよいよ来ました。満を持しての風莉√です。

風莉に関してはもう本当に、作品内での描写全てが丁寧で素晴らしいです。

共通√の項で軽く触れましたが、ツカミとなる開幕のシーンがただの出オチでは無く伏線として機能しているのが上手いですね。
風莉が湊に対して無防備過ぎるという話です。

風莉√中盤で明らかになりますが、そもそも風莉は物語開始時点で湊の事が好きで、湊を性的に誘惑して落とそうと試みているんですよね。
しかし風莉はあらゆる事に対して大変不器用で、結果としてこんな突飛な行動に出てしまったと。

そのあまりにも凄まじい不器用さには最早頭を抱えるしかありませんが、必死であることは伝わってきます。

また、ひなた√柚子√共に、湊が恋をしている時それを最初に察知するのは風莉なんですよね。

風莉は湊の事が好きで、ずっとずっと湊の事を見ているわけで、だからこそ他の人では気が付けないような些細な変化にも気が付く、付いてしまう。

こういう細かい伏線も素晴らしいですね。
いい仕事をしています。

幼い日、自分を助けてくれた湊に恋をした風莉は、それ以来、湊に見合うような自分になるための努力を試みているわけです。

その努力の一貫が「学生でありながら学園の理事長を務める」事であり、このことが巡り巡ってゲーム開始時に「湊を女子校に編入させられる力を持つ」ことに繋がっています。

この因果を数珠繋ぎにしたような設定が自分は凄く好みで。

これは、男が女装して女子校に編入するなんていうとんでもない設定を、出来る限り無理なく突き通すための理由付けなんですよね。
言い訳と言ってもいい。

しかしその「言い訳」の因果を数珠繋ぎにする事で、ある種の説得力、その世界での「必然」を作り出しています。

親のゴリ押しとはいえ、曲がりなりにも理事長となった風莉の力によって、湊を学園に迎え入れても違和感の薄い状況を作品世界の中に作り出したというわけです。

その上、そもそも風莉が理事長なんていう無理のある役職を持ったきっかけは湊にある。
そしてそのきっかけこそが、風莉が天涯孤独となった湊を助ける理由と。

幼い日の出会いから始まる因果が、巡り巡ってこの作品の設定を成立させる土台として機能しているんです。

突飛な設定であればあるほど、その設定を押し通すだけの説得力が必要です。
それが無ければ、作品世界はただ都合の良い箱庭でしかない。

虚構である創作物が、現実に対してどれだけ上手く嘘をつけるか。
その嘘を、作品世界の中の物理法則として読者に認めさせられるか。

ここの腕前次第で、作品のリアリティは大きく変わるでしょう。

『オトメ*ドメイン』はそれが上手い。

以前紹介した『放課後シンデレラ』もそうなんですが、自分はこういった、設定に対する裏打ちがしっかりと成されている作品が非常に好みです。

ですが風莉√の強みはこれだけに留まりません。
というかさっきまで喋っていた事は言うなれば「完成度の高い作品の前提条件」みたいなもので、本題はここからなんですよ。

風莉が「湊に相応しい自分になりたい」という理由で親に無理を言って始めた理事長業。

共通√の時点から新聞部と提携し、しっかりと「西園寺 風莉」の名前で学園の様々なトラブルを解決し、より良い学園、楽しい学園を作ろうと活動していた風莉。

プレイヤーは、湊は、ずっとその努力を見てきました。その姿を見てきました。

風莉なりに、ちゃんと「理事長」という役割を全うしようとしていた。全う出来ていた。
だからこそ、風莉√の終盤、風莉が理事長を解任されるとなった時、それに対して反対する友人達、生徒達の姿に説得力が生まれます。

形だけ、親の権力だけで理事長をしていたり、この作品のシナリオライターから、単に「理事長」というキャラクター設定を与えられただけの理事長では、このシーンにこれだけの説得力を与えることは出来なかったでしょう。

作品全体を通してずっと風莉の頑張りを描き続けていたからこそ「学生で理事長」なんていう滅茶苦茶な状況を心から肯定出来るんです。
この作品を通して風莉がずっと続けてきた努力が、作品世界の中だけでなくプレイヤーの認識をも変え、最後の最後で報われるわけです。

いやー、もうね。見事なもんです。

最初は「学生で理事長ってどういう設定だよ無理あるだろ」と思っていても、この作品をプレイし終える頃には「風莉・・・お前なりに理事長であろうと頑張ってたな・・・すげぇよ」となってるわけです。

良く出来た作品ですよ本当に。

理事長の解任理由が「学園自体の成績が悪いから」そして何より「風莉の成績が悪いから」というのも良かった。
ここで「学生が理事長なんておかしい」みたいな理由で来られたりしたら「何を今更な事を言っているんだ」ってなります。

そういう感情、印象に比重を置いた理由ではなく、客観的な事実を理由として使う方が、その問題の解決への道筋が明確になりますからね。

「成績が悪い」というのは、全くもって当然の正当な理由付けです。
反論の余地がまるでない。

そしてそれに対する湊と風莉のアンサーが「学園全体の成績を上げる」「風莉の成績を上げる」なのも、それはもう清々しいぐらいの正面突破でこれまた痛快です。

湊と風莉がカップルなのではというゴシップ的な側面を強かに利用し生徒を扇動する湊くん、アジテーターの素質ありまくりですね。
西園寺の総帥、案外向いてるんじゃないでしょうか。

途中まで厳格な父親というイメージだった風莉のお父さんが実は娘にダダ甘というのも、一見するとお話のオチ、コメディ的な要素に見えて、その実「娘に理事長を任せる」なんていう無茶を押し通す理由付けになっているのも良いんですよね。

厳格な父親だったらそんな無茶やらせるわけ無いですから。
娘に甘いという設定がある事によって、その無理が通ります。
この作品の設定、状況に、必然性が生まれます。

一つ一つのキャラ付け、設定に、そうするだけの明確な理由、必然性が存在する。

これこそが、この作品の完成度を支えている大きな要因でしょう。


シナリオの話ばかりしてきましたが、作中冒頭シーンで得られる印象から考えると「西園寺 風莉」というキャラクターも凄く魅力的に化けたなと思います。

風莉、全体的に欲求がリアルと言いますか、すごく人間臭いキャラクターなんですよね。
湊くんが好き過ぎるが故の性癖の歪みとかはまさにそれで。

湊くんが異次元級に可愛いキャラクターである事を存分に活かすことでコメディ的な面白さに昇華させていますが、やってる事は完全に変質者のそれという。

こんなリアルな変態性持ってるヒロインなかなか居ませんよ。

また、リアルなのは性癖だけでは無くてですね。
というのも、自分がこの作品で一番好きなシーンが柚子√で湊の背中を押すために風莉が湊に告白するシーンでして。


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このシーンはもう本当に情報量が凄くて。

風莉はずっと湊の事が好きで、湊に幸せになって欲しいわけですよ。
同時に、風莉にとって柚子は大事な友人で。これまた幸せになって欲しいわけです。

でも風莉自身は湊の事が好きなわけですから、湊と柚子が破局しかけているこの状況は風莉にとっては好都合以外の何物でもない。
それでもやっぱり湊には、柚子には、2人には幸せになって欲しい気持ちもちゃんとあって。
だからこそ、湊の背中を押すため、柚子を諦めさせないための告白。

ところが、ところがですよ。

この告白、風莉は間違いなく期待してるんですよ。

湊が自分の告白を受け入れてくれる事を。
柚子では無く自分を選んでくれる事を。

この告白のシーンで風莉が見せる「女の顔」がもうとにかく人間臭くて。

そりゃそうですよ。
ずっと湊のことが好きで好きで仕方が無くて、盗撮写真をファイリングするぐらいですから。

友人の幸せと自分の幸せが両立出来ない事を理解していて。
湊が幸せで居られるのは柚子の隣なんだと理解していて。
振られると分かっている、湊の背中を押すための告白なのに、それでもなお、どうしても期待をせずには居られない。

この矛盾が、葛藤が。

これが人間ですよ。
これこそが血の通ったキャラクターというものです。

単なる属性を詰め合わせた人形ではなく、作品世界の中を生きる「西園寺 風莉」という一人の人間が描かれる名シーンですよ。

そしてこの後、湊はちゃんと風莉を振って。
風莉は湊に振られて。

湊は柚子を追い掛ける決意をして、風莉は自身の失恋の悲しみを懸命に堪えながらそれを応援するわけです。

この西園寺風莉という女の格好良さと言ったらもう。
本当に良い女です。


・・・なんか湊くんをぶん殴りたくなってきました。
この√の話はこの辺りまでにしておきましょう。



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主人公「飛鳥 湊」について

さて、このゲームを語る上でどうしても外せない存在と言えば勿論、大変特殊な主人公である湊くんでしょう。

まず立ち絵があります。
単独のCGも数枚あり、全編フルボイス、なんならエッチシーン中もボイス付き。
挙句の果てには専用のエッチシーンパッチまで存在すると来た。

作中のキャラクターも、見た目完璧、家事万能、勉強も出来るし何より良い子。本当に良い子。良い子すぎて怖い。

どこの超人だよと言いたくなるようなバケモンスペックですね。

こんなの惚れるに決まっているというか、ここまで来るとむしろ湊くんに惚れない理由が見当たらないといった具合でして。
この作品で最も滅茶苦茶な存在と言い切ってしまって問題無いでしょう。

ですがスペックは高くてもやはり学生、精神的に不安定な面も多く抱えています。
といいますか、天涯孤独になったばかりなんていう人生における一大事が過ぎ去ってすぐですから不安定も不安定、むしろこれでどっしり構えてたら逆に怖いです。

前述のように常に後ろめたさを抱えて生活していますし、本当の意味で心を許せる相手が周りに居ないというのもかなり精神的に厳しいんじゃないかなと思います。

何せ湊が男であることを唯一知っている風莉はあの調子ですからね。

寮の家事や雑務を一手に引き受けて居るのも、湊くんが持つ後ろめたさの裏返しで「役に立たなければいけない」という強迫観念に囚われている事は作中でも語られていました。

これ、上手いと思うんですよね。

プレイヤーに伝わってくる情報というのは基本的に主人公の主観情報が主になるので、その主観を提供する本人が無自覚な部分に関しては伝わりづらいんですよね。

湊くん本人は自分が強迫観念に囚われている事に無自覚で、だから地の文でも言及されない。

結果として、湊くんが抱える問題は常に作中で描かれ続けているのに、湊くんとプレイヤーにだけ見えない状態になっています。

この問題がプレイヤーに対して明かされ解決されるイベントこそが、共通√終盤、最後の山場の家出騒動ですね。
ここの騒動によって湊くんの心に恋愛をする余裕が生まれたというのはだいぶ上の方で話したと思いますが、同時にこの話は湊くんの「行動原理」をフォローする話にもなっているんですね。

いくら家事が趣味同然の感覚で出来るからって、あの寮で発生する家事全部を1人で抱え込むなんてのは正直言って狂人の類なんですよね。

普段の学園生活と並行して、朝は健啖家の柚子含め満足出来る量の朝食と昼食の準備、学園では新聞部を手伝うこともあり、放課後は掃除に洗濯、夕食の準備。

家事に疎い自分が想像しただけでも生活の圧迫が凄まじい。

これを自ら進んで引き受ける人、ありがたいですけど怖くないですか。
なんか、完璧超人ってコンセプトで作られたロボットみたいで。

エロゲにおいて「だいたいなんでも出来る完璧超人」みたいなキャラクターは散見されますが、それが出来る、可能である事と、それをやる、実行する事は別の話なんですよ。
それをやるからにはそれをやるだけの理由が無いと、シナリオ進行上便利に使えるアイテムみたいな大変違和感のあるキャラクター造形になりかねない。

湊くんはその辺だいぶギリギリを攻めているというか完璧超人過ぎるところはありますが、前述の「強迫観念」がこの行動の理由として上手く作用していて、このおかげで湊くんは「とってもすごい家事ロボット」から一転「精神的に不安定な一人の人間」に見えるようになるんですよ。

この「強迫観念」を、湊くんの主観で物語を描いていることを利用し共通√中ずっと描写しながらも隠し続けて、家出騒動で問題を表面化させて解決する。

この一連の流れは、今まで「完璧超人」のような人間味の薄い印象で捉えていた「飛鳥 湊」というキャラクターの人間性を描き底を深い物にしながらも、同時にヒロイン達との恋愛の切っ掛けを描いているという大変に器用なシーンというわけですね。

おかげで後ろに続く個別√も本当にすんなり入ってきます。
何せ土台が固まってますからね 。

この記事で土台って何回書いただろうね自分。

さてそんな湊くん、外見はもうどこからどう見ても完璧に美少女な訳ですが、地の文はまあそれなりに男の子です。
家事が趣味だったり、視点が完全に実家のオカンだったり、若干男の子っぽさが怪しい箇所もあるにはありますが、その辺はもう趣味嗜好の個人差なので。

湊くんの女装がバレなかった大きな要因は、天性の外見もそうですが、それよりも趣味嗜好の影響が強かったんじゃないかなとは思いますね。女子力が高過ぎる。

とはいえ、柚子曰く「視線が男の子っぽい」とのことで。
これはどちらかと言うと見破った柚子が凄いんですけども。

共通√中盤でひたすらムラムラするだけの話があったのは面白かったですね。
この話は絶対外せないだろうと。

普通のエロゲの男主人公でこれをされても誰も得をしないんですけど、湊くんはかなり特殊な主人公ですからね。

主人公がムラムラするだけのエピソードでエンターテイメントとして成立するのは若干日本の未来が不安になるような気もしますが、それについては見ないふりを決め込むとしまして。

湊くんの話に限らず、このゲームは全体的に18禁であることの強みを活かした設定やエピソードが多いのが良いですね。
面白い話なのに年齢制限のせいでポテンシャルを発揮出来ないなんてのは残念極まりないですから。


若干話が逸れましたが、色んな意味で魅力溢れる主人公だったなと。



総評

一目見て伝わる、作品内を彩る美麗で愛らしいビジュアル。

作品のあらすじと冒頭のシーンは最早出オチながら、その背景を作中でしっかりと描き切るシナリオ。

人数は控えめながらも、しっかりとした魅力を持つヒロイン、サブキャラクター達。

見た目と女子力はヒロインよりもヒロインらしく、しかしキメる所はキメる男前の主人公。

一見すると癖が強い設定とは裏腹に、その中身は至ってシンプルにただただ「王道」を往く。
総じて、非常に完成度の高いゲームでした。

『オトメ*ドメインとても良い作品です。

『金色ラブリッチェ』感想。終わり良ければ全て良し・・・じゃないよ全部頑張れよ

どうも、緑のヒゲです。


前回の投稿から1年半ですか。時の流れは早いですね。この間にもちょこちょこ読み物のゲームはプレイしてたんですけど、いちいち感想書くの面倒だなって思っちゃって・・・。

正直は美徳なので、たった今積んだこの徳で長らく更新が滞っていた件の禊は済みましたね。
世界って優しい。


下らない話は置いておいて、今回のゲームはこちら

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『金色ラブリッチェ』です。

毎度の事ながらネタバレ全開の感想記事となりますので、未プレイの方はこんな倒錯したブログを読むのは一旦止めて、お近くの検索窓に「金色ラブリッチェ」と入力し公式サイト等にアクセスすることをお勧めします。

未プレイの人を読者として想定すると、感想記事を書くにあたって作品のあらましとかあらすじ紹介の手間が増えるので、こうして断りを入れることでブログ更新の腰を重くさせている「面倒」という感情を極力減らしていく次第です。

字を大きくしたり色変えたり画像差し込んだりとかもぶっちゃけ面倒なので今後はあんまりしないと思います。




・・・流石にぶっちゃけ過ぎましたか。
今日はいつにも増して堆く積み上がってますね。徳が。


そんなわけで未プレイの読者の存在はぶった切って、共通√感想、個別√感想、総評とやっていきましょう。











共通√

割としっかり目に個別√への伏線を張っているのはいい感じですが、全体的にお話や展開のノリが軽いです。コメディがしたいのか、シリアスな話がしたいのか、どっちもやろうとした結果振れ幅が大き過ぎてゲーム全体のリアリティバランスがちょっとふわふわしてしまっているなという印象を受けました。

決して悪くはないです。お姫様を助けて、変な学校に入ることになって。
最初はクラスに馴染めなかったけど、大きなトラブルを協力して解決することで打ち解ける。お話としてはスタンダードながらも良い流れです。

ただなんというか、シナリオを展開する都合で作品のリアリティレベルを上げ下げしてるのが気になりました。

シルヴィの警護がやたら穴だらけで緩かったり、玲奈は察しが良過ぎる時と察しの悪過ぎる時が混在してたり。

あとやっぱり、個人的にはキュロっていうロボットの存在そのものが良くなかったかなと思いますね。
キーアイテムではあるんですけど、流石になんでも出来過ぎです。

キュロの存在自体が作品のリアリティレベルを下げるんですよね。

キュロに限らず、ゲーム全体の雰囲気、つまるところ「金色ラブリッチェの世界」そのものがギャグに寄り過ぎている印象を受けたので、その「世界」でシリアスな話をされても「でもあんな意味分からんのも居るしな」となる事がありました。



これはシルヴィ√での話なんですけど、シルヴィが手書きの年賀状を2万通書くって話が出てくるんですね。

この話が出る日付がたしか12月中旬ぐらいなんですけど、一通につき1分で書き上げるペースで1日8時間年賀状を書いても、2万通書き上げるのに約42日かかるんですよ。

これは別にもっと現実的な数字にしろって言ういちゃもんをつけているわけでは無くてですね。コメディの描写としては全然有り得るしむしろアリだと思うんです。

ただこういう方向性のコメディって、作品のリアリティレベルが下がってるから許されるわけで。



例えば主人公がぶん殴られて吹っ飛ぶシーンがあったとしましょう。

コメディで吹っ飛ばされた時は次のシーンでは何事も無かったかのように会話してるのに、シリアスなシーンではそのまま怪我をして入院する、みたいな。

同じ世界なのに物理法則が一定じゃない、みたいな。そういう違和感が随所にありましたね。

まあそんな細かいこと気にしてんじゃないよって話なんですけど。
その点を除けばそこそこちゃんとしてはいますし、何よりコメディ主体の作品はとっつきやすいですからね。

とっつきやすいというのはそれだけで作品の魅力の1つとなるでしょう。

また、プロローグの金色から、思い出の箱、金の指輪と順調にミスリードしておいて、最後にラブリッチェマークからキュロちゃんまで持っていく流れは、そっちかよと笑わせてくれる良い構図でした。

それでいて、シルヴィ√やGolde Timeに向けての更なるミスリードの役割も持っている入れ子構造の伏線になっているのはとても美しいです。


続いては個別√の感想をプレイ順で。















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玲奈√

いきなりなんですけどこのルートだけゲームジャンルを間違えてませんか。

自分がプレイしているのは主人公とヒロインの「恋愛」を楽しむゲームだったと記憶しているんですけど、この√って恋愛してなくないですか。
恋愛と言うよりはセフレっていうかなんならソープ・・・おっと、ソープは法律上恋愛してましたね。これは失礼。

この√の何が良くないって、玲奈√と名打っているはずなのに最初から最後までヒロインであるはずの玲奈が蚊帳の外なんですよね。

主人公はただただ玲奈に甘える、玲奈はただただ主人公を甘やかす。

玲奈に自分の弱さを受け止めて貰った主人公は、改めて自分が抱える問題に立ち向かう、と。

ほら、このお話、玲奈いらなくないですか。正確に言うと「玲奈というキャラクターじゃなくても出来る話」だと思いませんか。

この√ってヒロインの話じゃないんですよ。最初から最後まで主人公の話なんですよね。
ちょっと酷い言い方なんですけど、この√のヒロインの立ち位置ってメインキャストじゃなくて主人公の回復アイテムなんですよ。

さっき自分がソープって言ったのはこれが原因で、つまるところ「妃 玲奈」という女の子じゃなくても、包容力のあるタイプの女の人であれば誰でもヒロインの位置に収まれるシナリオなんですよね。

なんなら「ヒロイン」じゃなくてもいい。多分この話の構造なら「親友」でも「親」でも「兄弟」でも同じ事が出来ます。

だってこのお話に必要なのは「主人公を受け止めてあげられる何かしらの要素」であって「妃 玲奈」という女の子では無いからです。

玲奈のポジションにシルヴィを嵌め込んでも、全く違和感無く物語が進むと思いますね。

この√を読む前と読んだ後で「妃 玲奈」というキャラクターの情報開示度が大して変わらないんですよ。

基本はギャルだけど他人の心の機微には聡い所があって、ファッションデザイナーっていう夢を持ってて、コーヒー牛乳がとても好き。

これは全部共通√でやった所です。
個別√で見たいのは「なぜ妃 玲奈はこういう女の子になったのか」っていう掘り下げなんですよ。

なんでギャルなのか。

何故他者との関係性を養うバランス感覚が優れているのか。

どうしてファッションデザイナーを志したのか。

「妃 玲奈」という女の子を形作るいろんなものを掘り下げていって、その過程で主人公とヒロインは惹かれ合って恋に落ち、2人で問題に立ち向かう、って言うのが「妃 玲奈√」だと思うんですよ。

ところがなんですかこの√は。
ヒロインはただ主人公を甘やかすだけ、主人公はヒロインに甘えるだけ。
初体験は恋も愛も関係なく偶然キメたクスリの影響で正気では無かっただけ。

なのにそのまま流れで付き合うと。

そうこうしてるうちに主人公の過去が追いかけて来て、その問題を解決するのは主人公1人。玲奈は見守るだけ。

受け止めて見守るだけなら他のヒロインでも出来ます。自分は「ヒロインが妃 玲奈でなければ出来ないシナリオ」を見たかった。


この際、初体験がキメセク3Pな事なんて些細な問題です。「妃 玲奈√」なのに「ヒロインが妃 玲奈である必要が無い」なんて、いくらなんでもあんまりじゃありませんか?



















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エル√

玲奈√とは打って変わって悪くない出来です。

シルヴィと血縁関係がある伏線もしっかり張られていますし、お話の内容も「このキャラクターとのお話」として綺麗に纏まっています。

自分の「役割」を定義して生きてきた女の子が、主人公との出会いで少しずつその「役割」から離れ、1人の人間として好きなように歩み出す流れは良かったですし、どうして「役割」に準じるようになったのかという部分もしっかり描かれていて好印象でした。

惜しむらくは、エルが主人公に惚れた理由付けが弱い事でしょうか。

ある事情から「恋人のフリ」をするようになった主人公とヒロイン、というのはエロゲの展開としては良く見るものですが、その偽物の恋が本物に変わる瞬間、そのキッカケみたいなのが曖昧だったかなと思います。

偽通い妻してたらなんか一緒に過ごす時間が楽しくて惚れちゃったーというのはまあ分からなくもないですが、どうせならもうちょっと印象に残る強めのイベントが有ればなお良かったんじゃないかな。

















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茜√


この子金色じゃなくて赤色じゃない?

まあ茜色って言うのは夕焼けの色としても使われる表現なので、夕焼けを金色と表現するこのゲームでは茜色も立派な金色という事で1つ。

個人的には全√の中で1番恋愛してたんじゃないかなと思います。

共通√の時点でかなり本気で主人公に惚れてるっぽかった茜ですが、個別√でその好意の理由がしっかりと描かれているのが本当に良かったです。

こういう「何故好きなのか」に対する理由付けは物語においてかなり重要だと思います。「どうしてその人でなければいけないのか」という、恋人という関係の唯一性の確保に繋がるからですね。

ここを怠ると、二人の関係やその関係を前提としたその後の展開が薄っぺらく感じてしまいます。恋だ愛だなんていう精神的な物に対して説得力を求めるのも変な話ですが、少なくとも読み物として読者を「納得」させるような描写をして欲しいなと常々思います。

そして、その点においてこの√は満点です。

走る才能は持っていても走る目的を持たなかった女の子が、ケガという挫折で自分の在り方に自信が持てなくなっていた所に主人公が現れ、手を差し伸べられる。救われる。

こんなの惚れます。納得させられます。

そして、がむしゃらにアタックしてその心を射止める。

この√の上手い所はここからで、この恋のきっかけになる、茜に対する「救い」が、そのまま√後半に「自分を救ってくれた存在の為に、自分を支えてくれる人々の為に走る」という、走る目的の獲得まで綺麗に繋がっている訳ですね。

良いじゃないですか。コンパクトながらもちゃんとやって欲しいことをやってくれています。シナリオの着地も綺麗です。
こういうのでいい。こういうのでいいんです。
エロゲの優等生みたいな√でしたね。


ちなみに余談ですが、自分がゆずソフトを狂ったように好んでいるのは、前述した「こういうの」を超高水準までブラッシュアップした物を安定して見せてくれるからですね。



















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シルヴィ√

悪くは無い、悪くは無いです。決して悪くは無い。
ただ、良いかと言われるとちょっと返答に詰まるような、そういう印象を受けました。

気になったのは、共通√と同じく、コメディ的な部分とそうでない部分の差でしょうか。

シルヴィって、正真正銘ガチで本物のお姫様なわけです。それも強国の。
作中でも良く「国際問題になる」とか「国が割れる」とか、そんな事を言われています。

そんなお姫様を相手にして周囲に無断で婚前交渉するの、普通にマズくないですか。これって本当に国際問題になって現実に国が割れる気がしませんか。

作中では「シルヴィ様の意志を尊重します」みたいに軽く流されてますけど、こんな重大なスキャンダルは軽く流せるのに作品冒頭で主人公がシルヴィを抱えて逃げた事は全く流せずに逮捕か利き腕の損失かノーブル学園への入学を迫るの、違和感あるんですよね。

他にも細かい違和感は色々あるんですけど、全てを総合して思うのは「シルヴィの権力を、シナリオを展開する上で都合よく使える便利な設定として使ってませんか」って事です。

作品冒頭で主人公を許すと主人公がノーブル学園に入らないから国際問題を持ち出して逃げたのを許さない。

シルヴィとくっつかないとお話が終わっちゃうから、政治的なややこしい問題は全部なあなあにしてお忍び婚前交渉してもオッケー。

共通√でも話したこの作品のリアリティレベルの違和感ってこういうところなんですよ。

シナリオの展開上都合が悪い事には出来るだけ蓋をする。無かったことにしたり、強引に事を進めたりする。

なんというか「キャラクターがお話に動かされている」感じがして、自分は苦手でした。

良く出来たゲーム、良く出来たシナリオっていうのは「キャラクターが自分で動いているように見える」んですよね。

実際はそんな事あるわけないんです。全部作者が考えて動かしてるんです。
でも、それを読者に感じさせない。物語を動かす為の嘘をつくのが上手いんです。

キャラクターが行動した結果、お話が転がる。
そういう風に見えるように作ってある。
だからその世界の中でキャラクターが生きているような感覚を覚えて、その世界で精一杯生き抜くキャラクターに魅力を感じる訳です。

その点においてこのゲームは全体的に嘘の付き方が雑というか「ああここはこういうふうにしないとこの先の展開が繋がらないんだな」みたいな、作為的なものとでも言いますか、作者がキャラクターを動かす糸みたいなものが随所にみられて、その点が世界への没入感を損なっているのが残念でした。

とはいえ、お話の流れとしてはこの√も茜√程ではないにしろエロゲしてるなって感じで印象が良かったのも確かです。


特に、主人公がシルヴィと結婚する為にはどうすれば良いかを現実的に考えるくだりは、主人公がシルヴィに対してどれだけ本気なのかを描きつつも、同時に身分の差という問題をシルヴィに恋をする上で越えなければならない壁として捉え、それを乗り越える為にどういう行動を取るかという、このシナリオが目指すゴール、主人公の目標の提示までを行うとても良いシーンだったと思います。




まあ結局軽い感じで交際許されちゃったわけなんですがそれはそれとして。




















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Golden Time 理亜√

圧巻です。

さっきまでの言われようは何だったのか、素晴らしい完成度です。

前述のシナリオ全てにおいて良き友人として見守りアドバイスをくれていた理亜が、満を持して主役を張ります。

通常√を遊ぶ中で少しずつ理亜への思い入れを読者に持たせておき、最後に全部持っていくわけですね。こういう構造はグランド√の存在するエロゲでは頻繁に見られますが、頻繁に見るという事はそれだけ優れた演出という事の証左なわけです。

中でもとりわけ目を見張ったのは、作中における「僧間 理亜」というキャラクターへの気の使い方でしょうか。

エロゲという媒体で、わざわざ喫煙なんていう一般受けしないであろう要素をヒロインに持たせたからには何かしらやりたい事があるんだろうなとは思っていましたが、それを味覚に繋げてきますか。

いくら綺麗とはいえ毎日毎日わざわざ夕日を見に行く理由を、視覚に繋げてきますか。

コメディリリーフだったはずの壁ドンを、聴覚に繋げてきますか。

こういう細かい伏線の束は、本当に上手いことやられたなーと思いましたね。

伏線の配置もそうですが、それを土台として展開されるシナリオも非常に完成度が高かったですね。

これまで「不治の病」という色眼鏡を通してしか自分を捉えてくれなかった世界。
そんな中、1人の男の子だけが「病気の子」ではなく「ただの友達」として自分を扱ってくれる。その男の子と一緒に過ごす時間だけは「1人の人間」として過ごす事が出来る。

そりゃね、惚れますよ。うん。

でも、自分はいつ終わるとも分からない不安定な身体に産まれてしまった。
ならせめて、二人の親友の仲を取り持って、2人が黄金の時間を生きる事で自分の生きた証を残そうと。
それだけを目的に生きていたら、何の因果か親友は再び目の前に現れ、憧れの男の子は自分の事を好きだと言ってくれる。

幼い日に過ごした「黄金の時間」以来、親友の為に歌うというひとつの夢以外何も持てず、ただ死んでないだけの生ける屍だった理亜が迎える再びの「黄金の時間」を描いた√。

だからこその表題「Golden Time」。

『金色ラブリッチェ』という作品はこの√のために存在すると言っても過言では無いでしょう。

中でも自分が一番驚いたのは、永遠に繋がると言われる湖の言い伝えを最後の最後に回収してきた所ですね。

何かしら仕掛けがあるんだろうとは思っていましたが、まさか湖を中心にループの構造で繋げて来るとは。

理亜との時間も勿論ですが、自分は作品やシナリオの構造に魅力を感じる人間なのでこのシーンが1番満足度が高かったですね。

作品の始まりを象徴する「変な箱に入った金のラブリッチマーク」なんていうどう考えても作為的なキーアイテムの存在を「偶然」ではなく「必然」へと変える仕掛けが作品の終わりに存在するこの構造を、美しいと言わずしてなんと言いましょう。

この「Golden Time」シナリオに関しては本当にシナリオへの没入感が強く、それまでの各√で感じていた作品のリアリティへの違和感も忘れてプレイしていました。


総評、の前に。
主人公について

このゲームを通して言える事なのですが、主人公の事があまり好きになれないというか、結局主人公がどういう人間なのかがあまり見えてこなかったなという印象を受けました。

「プレイヤーの分身として存在するのだから変なキャラクターが付いているよりは良い」という意見もあるかとは思いますが、ならそもそも玲奈√を丸々全部使って主人公と幼馴染みの話を広げる意味が分かりませんし、そこまでしたにもかかわらず結局主人公、市松央路というキャラクターは不透明な気がします。

この主人公の不透明さこそが各個別√のシナリオの弱さの根本的な原因ではないかと自分は考えていて。
というのもこのゲーム、ヒロインがいつの間にか主人公に惚れてるんですよね。

本当にいつの間にか惚れてるんです。

幼い日に黄金の時間を過ごしたから、なんてのはこのゲームの中だと理由としてしっかりしてる方で。

そもそも惚れる前から部屋に入り浸りの玲奈とか、わざわざ料理を覚えて晩御飯を作りにくるエルとか。

ただでさえなんで主人公に惚れたかがよく分からないのに、主人公に惚れる前と惚れた後で大して行動が変わらないので余計に分からない。

そして「惚れたタイミングが分からない」ということは「主人公が惚れられるような事をしていない」のと同義です。

この主人公が単独でかっこよかったのは、共通√のサバイバル生活で食事を用意する一連の流れが最初で最後だと思います。
じゃあ全員そこで惚れたのかって話ですけど、流石にそれは無理があります。

主人公がカッコよくなる、カッコよくあろうとするのって、ヒロインと結ばれてからなんですよ。

順序が逆なんです。カッコよくなった主人公に魅力を感じてヒロインが惚れるんじゃなくて、ヒロインに惚れられてから主人公がカッコよくあろうとするんです。
主人公の魅力とヒロインの恋慕に因果関係が無いんですよ。

このゲームはヒロイン視点の描写、つまり「ヒロインの目から見た主人公」のような、第三者目線で語られる主人公の情報が乏しいのも「市松 央路」というキャラクターの描写不足に拍車を掛けています。

なのでプレイヤーも主人公の人間的な魅力が分からないんです。ヒロインが惚れる時点の主人公って、プレイヤーから見ても大してカッコよく無いですから。

だって何もしてませんからね。
成績は悪い、授業はサボる、ヤンキーとつるむ。

プレイヤーは主人公のカッコいいところを全然見てないのに、作中のヒロインはどういう訳か主人公に惚れるんです。
登場人物の心境の変化に対してプレイヤーが置いてけぼりなんですよ。

そのせいで主人公とヒロインの関係を土台にしてお話を展開する個別√が全体的に薄っぺらいんですよね。だってそもそもの土台が適当なんですから。


Golden Time√の完成度が高いと感じられるのは「僧間 理亜」というキャラクターそのものをシナリオの土台に据えているからです。

その土台は、それまでの全ての√で描写されてきた理亜の献身や助言、伏線で作られています。
今までのプレイの中で「僧間 理亜」というキャラクター描写がしっかりとなされていたから、それを土台に築き上げられたGolden Timeシナリオの完成度は必然的に高くなります。

それ以外の個別√は、この「土台」がとにかく脆いです。

この辺の土台作り、主人公や各ヒロインの心理描写をもっとしっかり描いてくれていれば、個別√の方ももっともっと良いシナリオに感じられたんじゃないかなと思います。














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総評

√ごとの完成度に著しい差が存在する不安定なゲームだったな、というのが率直な感想です。

「Golden Time」シナリオに限らず、ゲーム全体であのクオリティ、没入感を演出することが出来れば本当に素晴らしいゲームとして強くオススメ出来ただけに、個別√シナリオの弱さが残念でなりません。

それでもやはり「Golden Time」の完成度は圧巻と言わざるを得ない。

本当に極端なゲームです。



『金色ラブリッチェ』不満点は数多くあれど、何故か満足度も高い不思議な作品でした。

『放課後シンデレラ』感想。圧倒的な完成度が織り成す「普通」が心地良い傑作

どうも、緑のヒゲです。

皆さんは「普通のエロゲ」ってどんな物だと思いますか?

自分はそれはそれはゆずソフトを愛してやまないにわかエロゲーマーな訳ですが、では果たしてゆずソフトの作品が「普通」かと問われると、結構色んなファンタジー要素を取り入れててバラエティ豊かですし、図書室オナニーとかの飛び道具を用いて来る事もあり「普通」では無いかもなぁ・・・なんてことを思ったりするわけです。

特にこの御時世エロゲに限らず、突飛でキャッチーな作品のあらすじと設定そのものが作品の広報活動の一環であることも珍しい事では無く「普通ではない」事を競い合うような一面も無いとは言えないでしょう。


そんな時代に白手袋を投げ付けるように現れた「普通」の権化のようなエロゲこそ、今回感想を喋り倒すこちら。


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『放課後シンデレラ』です。

さて、このブログの筆者は大変な面倒臭がりでして、いつも感想を述べるゲームの概要やらあらすじやらは「大変聡明な読者の方々であるならば既にご存知のことでしょう」という言い訳を頼りに丸投げしているのですが、今回はちょっと記事の主題にも関わってくることなので、本当にざっくりですがご説明を。

「放課後」をテーマに、クラスメイトや先輩後輩と下校したり、ちょっと寄り道してみたり、街で出会った別の学校の娘と話してみたり。


そんな「普通の学園生活」を描いたエロゲです。




・・・・・・・・・凄くないですか。




このゲーム、この御時世に、至って普通の事しかやってないんですよ。
突飛な要素、ゼロです。
突然吸血鬼になったりしませんし、伝説の御神刀をへし折ったりもしません。
超能力に目覚めたりもせず、交通事故で死んだと思ったら幼馴染みのパンツを見た朝に時が巻き戻ったりもしません。

「普通」なんです。「平凡」と言い換えても良いでしょう。

「普通」とか「平凡」って難しいんですよ。
物語を転がす上で必要になる燃料がほとんどありませんし、いざお話が始まっても、そもそも「普通」なんだからそこまで大きく予想を越えるようなことも出来ない。

ある意味究極の縛りプレイですよ。「普通」縛り。

そんな難しい「普通」という題材で、ここまで完成度の高いエロゲに出会えるとは。


そんなわけで、まずは攻略順に各ヒロイン√の感想です。
あ、ネタバレの嵐なのでご注意を。



宇佐川 雪子

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もう、めちゃくちゃ可愛いですね。なんですかこの娘。決戦兵器か何かですか。何と戦うのかは知りませんが。

出逢いの時から始まりずっと続いていた主人公への意地悪やからかいの数々が巡り巡って自分が主人公へ想いを伝える際の足枷になると言うのは、ありがちではありますがとても綺麗なお話の流れで良かったです。
「憧れの先輩」である雪子にからかわれ常に異性を意識させられながらも、男としていい所を見せようと頑張る主人公も良かったですね。

何よりも特筆すべきは「ありがち」でありながらも読んでいてしっかりとこちらを楽しい気持ちにさせてくれるこのヒロインの魅力です。
逆に言ってしまえば、ヒロインが気に入らなければ楽しく読むことは出来ないでしょう。
エロゲなんてものは得てしてそんなものではありますが、中でもこのゲームはそれが顕著ですね。


築島 つくし

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この娘は先程感想を述べた雪子とは逆で主人公の後輩に当たるのですが、お話としても「雪子にアタックする主人公」の逆で「主人公にアタックするつくし」の構図になっている部分がありますね。

つくしが比較的序盤から主人公に惹かれている理由は言ってしまえば一目惚れなのですが、物語冒頭の占いの下りで「異性を意識させる下地」をキャラクターの中に作っているのが大変芸が細かくて良かったです。

キャラ紹介と一緒にこういう「キャラクターに厚みを持たせる情報」を提示してくれるとその後のキャラクターの行動にしっかりと説得力が生まれるので、つくしの態度もすんなりと受け入れることが出来ます。
細かいながらもしっかりとフォローが効いていました。

「気になる先輩にアタックしたいつくし」と「可愛い後輩と色んな話をしたい主人公」がお互いを意識しながらステップアップをしていく流れが丁寧に描かれていましたね。



王城 茉莉愛

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すいません自分はこの娘だけさっぱり受け入れられませんでした。
この娘というか、この娘の√ですね。
この√だけ作品から浮いているというか、違和感が凄いんですよ。

出逢いから恋人になるまでの流れは他のヒロインと同様に完成度が高く、住む世界が違うと言ってもいいお嬢様が、身も知らぬ他人であるはずの主人公に対していっそ強引とすら言える押しの強さでアタックして来る理由も「まあ若干夢見過ぎかなーこの娘」とは思いましたけどきっちりと描かれていましたし、その点は特に文句は有りません。むしろ良く出来ていると言えます。

しかし、しかしですよ。
この√の主人公、いくら何でも何もしなさ過ぎです。
学生が同居するのはまあ良しとしましょう。ですが、ヒロインの家に転がり込んだ挙句、その生活にかかるありとあらゆる費用を全部ヒロインが出すのはおかしいでしょう。
というか、正確言うとお金を出しているのはヒロインですらなくヒロインの実家、つまりは親です。

いやいやいやいやおかしいでしょう!

生活費はヒロインの親持ちでヒロインと同居って甲斐性無しもいい所では・・・・・・。

まあこんな感じで意味不明な条件の同居をあっさり受け入れる主人公もどうかと思うんですけど、じゃあ肝心のヒロインの親はって言うと、なんと特に不満も無く了承しちゃってるんですねこれが。

挙句テレビで見た観光地に日帰りで旅行して帰りはヘリコプター(費用は全てヒロインの親持ち)とか、主人公と並んで授業を受けてみたいから主人公の学校に一日編入(親の力で)とか・・・・・・。

ヒロインがひたすら好き放題して、主人公はそれを幸せそうに享受しているだけという。
言ってしまえばヒモですよね。この√の主人公は完全にヒモです。挙句「茉莉愛の幸せを考えろ」とかヒロインの親に説教しますからね。訳が分からない。

他の√の圧倒的な完成度と比較して、この√だけあまりにも酷い出来でしたね。落差がすごい。
この√だけ別のゲームなんじゃないでしょうか。


田寄 多乃実

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ポンコツですね。ポンコツヒロインです。
ですが、だからこそ生まれる等身大の関係性というか、毎回全力でぶつかり合う主人公とヒロインがとても心地良いです。

ですが何よりも良かったのは「田寄 多乃実」という存在そのものがこの作品を成立させている点です。

同じ転校生として彼女と出逢い、その価値観に触れたことで主人公は「変わろう」という決心をして、日常生活や女の子に対して積極的になるわけですが、これってつまり「主人公の行動の動機付けをしている」んですよね。

どうして主人公は学校帰りにこんなに寄り道するのか。どうして主人公はこんなに色んな人に声を掛けているのか。

そういう「ゲームシステム上生じる違和感」みたいなものを、一人の女の子との出逢いを描く事で全て払拭しているわけです。
大変にスマートなやり口と言えるでしょう。

また多乃実√終盤で明かされる、そんな主人公の行動を裏付ける多乃実の価値観の起こりすらも、実は幼い頃この街に住んでいた主人公の行動によるものだったという二重底の構えは本当に唸りました。

結構色々物語について語ってるように思いますけど、ぶっちゃけこのゲームって物語なんてあって無いような物でして、基本的にはヒロインとステップアップしてイチャイチャするだけのゲームなんですよ。

ですがこのゲームはそんな「あって無いような物」の物語の中で、しかしきっちりと作中キャラクターの行動の動機付けや伏線の配置と回収をこなしていて、その手際には脱帽です。

「この作品を成立させるために最低限やらなければいけないことが何か」をキッチリと分かっていて、そういう要所要所の物語のキメを怠らないんですよね。

そんな風に物語のケアが行き届いている世界だからこそ、余計なことを気にせずにヒロインとのイチャイチャを楽しめるわけです。



あ、茉莉愛√の事は忘れてください。アレはダメです。あの√だけ製作スタッフ違うんじゃないの。
同じ作品なのが信じられないレベルで完成度に差があるんですけど・・・・・・。


長南 陽佳

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もう、ええ。言葉が見つかりません。最高としか言いようがありません。
とりあえず見た目が滅茶苦茶好きなんですけどそれは置いておいて、この娘が何よりも素晴らしいのは「幼馴染みとしての距離感」なんですよ。

昔は仲が良かった男の子が街に帰ってきて、同じ学園に通う事になって。
昔と全然変わらない所を見て懐かしくなったり、逆に、昔とは変わった所を見つけてドキっとしたり。

幼馴染みのよしみでちょっと世話を焼いてみたり、かと思えば、幼馴染みだからこそ知っていた事で心の中を見抜かれてしまったり。

もうほんとに。100点です。こういう、付かず離れずの幼馴染みという関係性の描写がなんと丁寧な事か。筆者はもう、共通√のプレイ中感無量でした。
これが幼馴染み。これこそが幼馴染み!

逆に主人公視点から見ると、陽佳は本当に「変わったなぁ」という印象なわけです。まあ滅茶苦茶ギャルになってますからね。

ですがそこは幼馴染み、こちらも「変わった」中に時折見せる「変わってない」陽佳の姿を見て、あの頃を懐かしんだりドキドキしたり。

本当にお互いの距離感が素晴らしい訳ですが、この作品はそれだけに留まりません。

陽佳√終盤で、主人公への初恋と引越しによる別れが幼き日の陽佳に齎した物がなんだったのかが明かされます。
いつも主人公に憧れ、守ってもらっていた。陽佳にとっての「ヒーロー」であった主人公が居なくなり、陽佳はこのままではいけないと「変わろう」と思うわけです。

ここがまたこの作品の良く出来ている所で、このエピソードって、それまで地味で大人しかった陽佳が、今どきの明るいギャルに変わる切っ掛けを描いているわけです。

このエピソードを経て、地味だった陽佳が明るいギャルになり、主人公と再開した時に「変わったな」と驚かれる物語冒頭の場面に繋がる訳なんですよ。

こういう細かなケアというか噛み合いが本当に素晴らしいんですよ。

「昔は大人しかった幼馴染みが今はギャルになっててビックリ」ってだけじゃないんですよ。
そこで「どうしてそんな劇的な変化が起こったのか」という一歩踏み込んだ所にまで理由付けされているのが、作品の完成度に大きく貢献しています。

キャラクターの行動の重みが違うんですよね。そのキャラクターの「人生」と言ってもいい。

これまでの人生でどういう経験をして、だからこういう性格になった。こんな事があったからこれが好きになった、嫌いになった。
そういう「積み重ね」をしっかりと感じさせてくれる。

そしてそう言う積み重ねを感じるからこそ、主人公と触れ合っているヒロインに対して、キャラクターとして大きな魅力を感じる事が出来るんです。

ちなみに自分が幼馴染みが好きなのは、他と比べてそういう「積み重ね」の描写が多い傾向にあるというのも一因かもしれません。

そんなわけで、細やかな描写に裏打ちされたこの陽佳というキャラクターがこれまた可愛いこと可愛いこと。
やっぱり小悪魔ギャルっていうのは一つの夢というか、逃れられない魅力がありますよね。とても好きです。


総評・・・の前に。
サブキャラクターとこの作品世界について

この作品はヒロイン達が抜群に可愛いです。

ですが、それだけではない。
この作品が持つ空気や世界、その完成度を支えているのは、1人で帰る時にも発生する数々のイベントと、クラスメイトをはじめとするサブキャラクター達であると言えるでしょう。

先程も言いましたがこのゲーム、ぶっちゃけシナリオなんて有って無いような物なんです。

昼間はクラスメイトとバカ騒ぎをして、放課後はヒロインと話しながら帰ったり、寄り道したり、時には1人で帰ってみたり。
何度もヒロインと一緒に帰るうちに、ただの友達とは少し違う、異性を意識する雰囲気になってしまったり。

そんな日常と、その中で育まれ一歩ずつ進んでいくヒロインとの関係のステップアップを描いたゲームなんですよね。

そんな「普通」の「平凡」な物語を、しかし退屈させずに読ませてくれるのが、圧倒的に濃いサブキャラクター達です。

毎日毎日飽きもせずバカ騒ぎをするクラスメイト。いつもヒロインと一緒に帰っている、ヒロインと仲の良い友人。
そんな「日常の学校生活」を演出してくれるキャラクター達が居るからこそ、このゲームの主な舞台である「放課後」という時間帯に重みやリアリティが出る訳です。

そもそも「放課後」というのは「学校」があるからこそ生まれるものです。
だからこそ、この「放課後」をちゃんと「放課後」として成立させるためには、主人公達にはちゃんと学校に行って貰わなければいけない。

サブキャラクター達はそんな、このゲームにおいて必要不可欠な「学校」という場所、「登校」という行動を演出するための、まさしく縁の下の力持ちなのです。

この縁の下の力持ちのおかげで、このゲームは「放課後」を「放課後」として成立させる事が出来ているのです。


また、ヒロインと一緒に帰らない、1人で帰る放課後にも様々なイベントがあります。
クラスメイトと帰ったり、ヒロインの友達とばったり遭遇したり。迷子を見つけたり、道案内をしたり。怪しげな店に連れ込まれかけたり。

この作品はそういう「日常」の表現や描写に対して全く手を抜いて居ないんです。
しっかりと面白く騒がしい「日常」が、色々な人が生きる街が、世界が、そこにはあります。

だからこそ、そんな日常の世界で起こるヒロインとの出逢いや触れ合いが、恋人という特別な関係が、より鮮明に、魅力的に輝くのです。


総評


このゲームは、大して中身の無いゲームです。
ある種、キャラゲーの極地と言ってもいいでしょう。

重厚なシナリオも無いですし、予想を超えるような驚きの展開も有りません。主人公も、ヒロインも、至って普通の人間です。

ですがこのゲームには、この世界には、確かな魅力が有ります。

学校に行って、クラスメイトとバカ騒ぎして。放課後は勇気を出して気になる女の子に声を掛けてみたりして。

光り輝く「普通」の世界が、愛しい「平凡」な日常が有ります。

今日は誰と帰ろうか。何処を通って帰ろうか。

そして、そんな普通の世界を生きる可愛いヒロイン達が居ます。



そんな「普通のエロゲ」である
『放課後シンデレラ』



一歩ずつ一歩ずつ進んでいくヒロインとの恋を楽しめる、恋愛SLGの新たな傑作です。





・・・・・・茉莉愛√以外は、ね。

『青春フラジャイル』感想。詰めが甘すぎるよこのゲーム!

どうも、緑のヒゲです。

・・・・・・たまには前置きとか無しにして本題行ってみます?
いや、そもそもこんな謎のブログを継続的に読んで下さっている方は果たしてこの世に存在するのかという根本的な疑問はあるんですけど。
もしそんな物好きな方がいらっしゃるのだとすればいつもありがとうございます。
そんな方には大変申し訳ないんですけど、今回の記事は滅茶苦茶毒を吐いています。

何はともあれ、今回プレイしたエロゲ

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purple softwareさんから発売のこちら
『青春フラジャイル』です。

まあ細かい設定の説明とかそういう面倒なもんはこの記事を読んで下さる方には必要が無いと思いますので、早速攻略順に感想を述べていきましょう。

ちなみに結構酷い事言ってるんで好きな人は覚悟というか自衛して下さいね。個人の意見という事で。


桜宮氷緒

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まず結論から言っちゃうんですけど、自分この娘のこと嫌いなんですよね。

作中でも語られてるんですけど、もうツンデレと照れ隠しを理由に体のいい暴力を振るって許される時代は終わりを迎えたと言いますか、最近は所謂「ツンデレ」という属性も、暴力を伴うことは少なくなったように思います。

そんな中颯爽と現れた正統派暴力ヒロイン!
いやー、ほんとにキツかったですね。
とまあそんな感じで印象最悪だったんですけど、個別√のお話の展開は割と好みというか、細かな伏線がいい味を出してて思いのほか悪くはなかったですね。

特に良かったのはやはりプロレスを通して仲直りする流れでしょうか。
プロレスっていうのは言うなれば、氷緒が抱えている「楽しかったあの頃」の象徴なんですよね。
その影を今も一人追い続けている、言うなれば、常に過去を観ている氷緒の目を現在に向けさせるプロセスとして、とても綺麗に纏められて居ましたね。

かつて2人で楽しみ、いつしか1人になり、そしてまた2人で・・・・・・という、氷緒と優人の距離感を演出する要素として使われていたのはとても印象深いです。

そこだけではなく、クライマックスの決戦で優人が見せる「逃げないことはかっこいいこと」という心意気までもがプロレスからお出しされるとは。あのシーンは本当に唸りました。

ですがそれだけに、大筋の流れが惜しいですね。
氷緒と優人をクビにしたのはどうしてか、みたいな話を中盤延々見せられるんですけど、正直傍から見てるプレイヤーとしてはそんなの分かりきってるんですよね。

妹の将来を思えばこそ姉としては向いてない旅館の仕事に縛られて欲しくないわけで。
しかも短い期間じゃないですよ。数年間ずっと本気で努力した上で仕事が上手くいかなかったわけで、そりゃお姉さんも「無理かな」ってなりますよ。

そりゃそうよねー、とか思ってたら、何故か優人も氷緒もなんか「どうして!!」みたいな事ずっと言ってるんですよね。

流石にちょっと知性が落ち過ぎと言いますか、そんなの考えたら分かるでしょと。
この辺り、氷緒とわるいまほうつかいが手を組む理由を作りたいっていう創作上の都合を感じましたね。

そんなわけで、細かい演出は光るものの、そもそも本筋が微妙なので全体的に微妙というのが氷緒√の感想です。





卯月 透音

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この娘はとても可愛いですね。非の打ち所が無いと言ってもいいでしょう。
器量良し、性格良し、家事も万能、オマケに美少女!
いやー素晴らしいですね。

・・・・・・・・・で、なんで妹なんです?

ちょっと別のゲームの話するんですけど、ハピメアの咲って結構重い理由で全く血の繋がりの無い透の「妹」になってるわけじゃないですか。

それに比べて、透音はなんで「妹」なんです?全部終わりましたけど、結局「妹みたいなもんだから」っていう超絶雑な理由を最初にちょーっと説明されて終わりでしたけど。動機付け薄過ぎません?
いやまあ透音の場合「四季家と卯月家の関係上、家族として見た場合優人より年下な透音は妹に当たる」と言えなくは無いですけど。

でも流石にちょっと薄過ぎません?というか、この擬似家族にしたって「身の回りのお世話をしているメイド妹ヒロインを出したい」から「こういう設定にしよう」ってなってると思うんですよ。
なんというか「先に出したい属性を決定した上で、それを出すために都合のいい設定を構築している」ように感じますね。
感じるというか「それを感じさせる程詰めが甘い」って事ですね。

というかこれは後で全部吐き出すんですけど、このゲーム全体的にキャラクターの行動に対する動機付け、理由付けが薄っぺら過ぎなんですよ。


んでまあシナリオなんですけど、一言で言うと「知ってた」ですね。
いや、分かるじゃないですか。

透音は昔身体が弱くて、ある時期を境に突然元気になった。
リズは「優人がこの程度の魔法しか使えないのはおかしい」と言ってる。

そりゃあ「多分透音の身体を治した影響で魔力弱くなったんだな」って思いますよ。

思いますけど、思いますけどね?まさかそれが答えそのまんまだとは思わなかった。もっと捻ってくるのかと。なんの捻りもなく分かりきった答えを出されましても「そうですか」としかならないですよ。

そんなわけで、これに関してはちょっと「お膳立てし過ぎた」という印象ですね。伏線を丁寧に張るあまり答えが丸分かりというか、なんの捻りもないので面白みが無かったですね。

あと何よりも理解不能なのが「アイドル志望」なのに「彼氏持ち」な事を微塵も隠そうとしない所ですね。
透音、どんな手段も使うとか言いながらそこを隠す気が無いのは控えめに言って頭おかしいのでは?アイドルを舐めてます?情報化社会を軽んじてます?SNSを甘く見てます?

自分が抱いてるこのゲームの不満点ってこういう所なんですよ。

設定とお話の整合性を取る気あります?アイドルに彼氏が居たら不都合ですよね?なんで誰もそれを問題視しないんですか?なんで人前でイチャついてるんですか?
さらにヤバいのは、結局アフターでプチ炎上したけど収まってきたねーみたいな軽い感じでこの件にちょこっとだけ触れて終わっておきながら、このあとのリズ√ではリズの魔法バレが一瞬で拡散されて大問題になる所ですよ。
このライターはアレか?作品のリアリティレベルを合わせる気が無いのか?
最近巷で話題の新星アイドルが彼氏持ちなのは2行で問題が解決して、リズの魔法バレは速攻で大拡散されて「インターネットの情報は魔法では難しい」とか深刻な顔してリズも「私なんて居ない方が」って追い詰められて?

同じ世界なのにインターネットの扱いに差があり過ぎでしょう。

そんなわけで、透音√のシナリオは嫌いですね。エロゲってファンタジーですしそんな細かいこと気にするなみたいな意見もあるでしょうけど、こういう細かい違和感で溢れてるんですよこのゲーム。



リズ・メイサース

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さて、先程も少し話に出ましたが、まずはキャラクターの印象を。
迷惑。ただただ迷惑。単純に迷惑。そういう娘でしたね。
何より酷いのは反省が無い事でしょうか。
魔法使うなって言われてんのに使う。やめろって言われてもやめない。善意から来る迷惑っていうのは1番タチが悪いんですよ。自分には受け入れられないキャラクターでした。

さて個別√の感想ですが、前述の超絶迷惑の理由付けがキチンとされていたのはとても良かったですね。
そもそもリズには魔法しか無かった事や、だからこそ、魔法が無くても他人を幸せに出来る優人に惹かれただとか。恋の動機付けは4人の中では比較的なされていました。
というか、前述の2人が「昔から一緒にいたから」っていう舐め腐ってるとしか思えない属性的な理由だけで最初から最後まで主人公好き好きーってなってるのが心底気に入らないので、それに比べるとリズ√はちゃんとボーイミーツガールしてます。そこはとても好きです。

ただまあなんといいますか、結局なんで押し掛け師匠しに来たのとか、そういう肝心な部分が全部せつな√に丸投げされている上、それを語るせつな√ではあくまでもせつなが主役なのでリズの話は軽く流されているわで、全体的にリズというキャラクターが持っている要素を上手く活かせて居ない印象を受けました。
あとはやはり透音√とは作中世界が違うのでは錯覚するレベルで異なるインターネットの描写ですね。ここの違和感はいただけない。

というかまあ、そもそもリズって自業自得というか、物語が始まって割とすぐ「ああコイツこのままだと問題起こすぞ」とは再三言われてましたし思いましたし、個別√でいよいよ実際に問題を起こしたわけです。

リズがやってる事って結局優人に甘えてるだけなんですよね。最初っから最後まで。ただただひたすらに迷惑を掛け続けて。このキャラクターのどこに魅力を感じれば良いのか自分には最後まで分かりませんでした。「可愛いから許されてる」だけなんですよこの娘。
だからこそ、シナリオの最後で「もうここにはいない方がいい」とか言い出した時は「うん。そうだな」みたいな冷めたことしか思えませんでしたし、むしろついて行こうとする優人を見て「いやーほんと優しいな。自分には絶対無理だわぁ」みたいな事しか思えませんでした。





鳥羽せつな

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さて、ここまでほっとんど不満しか言ってない今回の感想なんですが、事ここに至り、ようやく笑顔で語れそうです。
そもそも自分は体験版の時点で前3人全員気に入らないけどせつな可愛いから買うか、ぐらいの心持ちでしたので。

そんなわけでせつなですが、流石にメインヒロインだけあって優遇されてましたね。というか他の3人が適当過ぎる。
せつなの過去を追っていく中で、主人公を好きになった理由もしっかり描写されてますし、せつなの抱える自己矛盾がそのまませつなの分裂という形で表に出ていたり、他の√と比較しても全体的な流れや演出が丁寧で良かったです。


・・・・・・はい。それぐらいです。特に言うことは無いです。
そっかー。うんうん。よかったよかった。で感想終わりです。悪いところそんなになかったですし、良いところはさっき言った通りです。

いやこれ別に書くのがめんどくさいとかそういう話じゃなく、それぐらいしか言うことが見つからないんですよ。このブログの筆者は自分が作品を通して得た熱量を消費して記事を描いてるんですけど、せつな√は良くもなく悪くもなくみたいな、言ってしまえば「こんなもんか」って感じだったので、このブログにぶつけられるだけの熱量を得られなかったんですよね。

過去記事でも、作品全体の感想というよりはある特定のキャラクターへの熱量で記事を書き上げている事の方が多いのはそういうことです。
熱量が無いと書けないんですよ。んでもって、良くも悪くも無かったから熱量が得られなかったと。




青春フラジャイル 総評

全体を通してまず言えることは「詰めが甘過ぎ」ですね。特に、登場人物の行動の理由付けが適当過ぎます。「設定」から話を組み上げたような印象を受けますね。

恋愛感情の描写からして雑なんですよ。
そもそも氷緒も透音も「優人のことが好き」という設定を与えられているから優人のことが好きなだけでなんで優人を好きになったのかって描写がさっぱりされないのは流石におかしいでしょう。お前らが優人の事が好きなのは分かったけど結局なんで優人が好きなんだよお前らってなりますからね。
「優人の事が好きだからこうする、こうしたい」って言うのは作中でもいっぱいありましたけど、根本的に「どうして、なぜ優人が好きなのか」が描かれていないので、シナリオが薄っぺらいことこの上無いんですよ。
せつな√では過去編を通してそこら辺の描写がしっかりしていたので、その後に続く自己矛盾の葛藤やそれを乗り越えるための破壊までの流れにしっかりと裏付けがあってとても良かったですし、リズに関してもどうして好きなのかは描かれていたので、その後に恋人になった後の「離れたくない」っていう気持ちに関しては納得感が生まれてるわけなんですよ。でも氷緒と透音はそこらへんがさっぱりなので、ただ好き好き言われたところで「そうですか」としかならないです。

あと、過去編の優人くんはせつなが自分の事を好きなことになんとなく気付けているのに、氷緒と透音に関してはさっぱり気付かないのも納得がいかないですね。この辺もキャラクターに一貫性が感じられないというか、その時その時のシナリオの都合でキャラクターの知能指数を都合よく上げ下げしてるだけにしか思えないので、まあ、きっぱり言ってしまうと自分はこのライターさん嫌いですね。未来ノスタルジアは良かったんだけどなぁ・・・・。


あと、そもそも設定というか「属性」に頼り過ぎですね。頼りすぎにもかかわらず全然活かせてない。透音のアイドル属性は結局最初から最後までお話のノイズでしたし、リズの「押し掛け師匠」もリズ本人の√で押し掛け師匠をしてくる理由が語られないとかいう意味不明な扱いですし。氷緒は「プロレス」だけはシナリオで輝いてましたけど、結局「幼馴染み」っていう関係性も「最初から主人公を好きでも許される便利設定」としてしか活用されてませんでしたし。
いや、ほんとに。幼馴染み舐めとんのか。「幼馴染み」を「理由無く主人公が好きでも許される便利設定」扱いするのやめてくんない?ほんとに。

こういう、キャラクターを「属性」でラッピングしてお出しされるのめちゃくちゃ嫌いなんですよね。それって、作品世界を生きている「キャラクター」じゃなくて、ただの「記号の集合体」でしかないじゃないですか。いくら創作物が紛い物だとしても、ここまで純度の高い紛い物ともなると流石にちょっと・・・・・・。

ちゃんと設定活かせてたのせつなだけじゃないですかね。近くても遠くても壊れてしまう距離感のバランスを取るための「ストーカー」だったとか。せつな√だけはちゃんとしてるんですよね。せつなだけ特別扱いとか言ってないで、4人全員せつな√並みのクオリティで作れなかったんですかとは声を大にして言いたいですね。

あ、そういえば全然触れてませんでしたけど、イラストはもう文句無しの100点、大満足です。最高です。イラストのためだけにこのゲームやっていいぐらいには最高です。

さてそんなわけで、感想っていうか最早不満ノートみたいな代物になりましたねこの記事。
たまにはこういうのも良いでしょう。
それではまたどこかで。








ちなみに、自分的な「幼馴染みとの恋」の理想形は『喫茶ステラと死神の蝶』に登場する希です。
長い時間を過ごして来た幼馴染みとの関係に、ふとしたきっかけで変化が起こって、2人はお互いを異性として意識し始める・・・・・・。みたいな。そういう、歩き出しから描写が有るのが好きですね。

『エロゲ』こそ恋愛SLGの正しいカタチではないかという話

どうも、緑のヒゲです。

このブログを始めてから2年と少しが経ちました。
ゆずソフトの『RIDDLE JOKER』感想記事とか、ぱれっとの『9‐nine-』シリーズ感想記事とか、実働期間に関してはこの際目を瞑るとしまして、始めたばかりの頃はどうなるか分からなかったこのブログも順調に方向性が定まりつつありますね。



エロゲ方面にですけど。




さて今回もそんなにエロゲに関するお話です。


突然なんですけど、皆さん『恋愛SLG』ってどんなものだと思いますか?

主人公が居て、ヒロインが居て。
2人が出逢い、惹かれ合い、恋に落ち、結ばれ。
迫り来る困難も、2人で力を合わせれば乗り越えられる!

みたいな。


まあざっくり言うと「主人公がヒロインと恋愛する物語を読み進めるゲーム」だと思うんですよ。


とはいえ数多くの例外はありますから、今回は「標準的な」という逃げ道にピッタリな前置詞を置かせて頂きますが。

更に要素を付け加えて、今回の話は「標準的な、よくある、主人公とヒロインが普通に恋愛するタイプの恋愛SLGにおける話」としておきましょう。


自分はそもそも読み物が好きですし、可愛い女の子だって好きですし、なんなら今皆様が御覧のように自分のブログの内容をエロゲ方面に舵取りしているわけなので勿論好きなんですよね。恋愛SLG


そんな訳で恋愛SLGが好きな自分なんですけど、恋愛SLGって2種類あるじゃないですか。
レーティング的な意味で。


「全年齢」「18禁」の2種類です。


一応、念の為、石橋を叩いて渡るかのように説明しておきますけど、全年齢ってのは主人公とヒロインがキスぐらいまでするゲーム、18禁は主人公とヒロインがしっかりがっつりセックスするゲームですね。

ただ自分は一端の恋愛SLG好きとしてどうしても主張したい事がありまして。



「『恋愛SLG』を名乗るんなら主人公はヒロインとセックスしなきゃダメだろ!」と思うんですよ。



これはなんと言いますか、自分が持ってる歪んだ倫理観に起因する気持ちなんですけどね。
年頃の若い男女がしっかり両想いで恋人になったとして、セックスしないわけがないんですよね。



セックスしないわけがないんですよね!(偏見)



まあ多分に偏見が含まれているのは認めますけど、それでもなんというか「セックスする可能性がかなり高い」ぐらいまでは言えると思うんですよ。


セックスって基本的には愛の営みなわけじゃないですか。好きな人と、恋人とする行為であり。
それこそ『恋愛』とは切っても切り離せないじゃないですか。

「一線を越える」なんて表現もあります。そういう言葉が生まれるぐらいには『恋愛』における大きな出来事だと思うんです。


で、あるならば。
恋愛における大きな出来事であるならばですよ。


こと「恋愛をシミュレーションするゲーム」である所の『恋愛SLG』は、セックス無くして恋愛をシミュレーションしているとは言えないんじゃないかと。
自分はそう思うわけです。


ってまあ、これだけ言っても

「なんだコイツ単純にエロが見たいだけじゃねぇの」とか
「めんどくせぇ奴だな」

とか思われる気がするので、逆の視点として「全年齢向け恋愛SLG」についてもお話しましょう。


そもそもなんですけど、全年齢向けの恋愛SLGで主人公とヒロインがセックスしないのって、なんでだと思います?

どんな理由が浮かぶでしょうか。主人公もヒロインもエロに興味が無いから?性教育が行き届いてなくてセックスって行為を知らないから?主人公がすごく真面目な人で、ヒロインの事を大事にしてるから?

もしかしたら今挙げた理由でしないのかも知れませんけど、もっともっと分かりやすくてしかも一言で説明出来る理由がありますよね。


そうです。「全年齢の恋愛SLGだから」です。


ここで「ん?」と引っかかってくれると、もしかしたら自分と話が合うんじゃないかなーと思うんですけど、この理由って物語としておかしくないですか?

「このゲームは全年齢だから」主人公とヒロインはセックスしないんです。おかしくないですか?


なんで物語の中の登場人物が物語の外のルールに振り回されてるんですか?
なんで制作側の勝手な都合で主人公とヒロインは見えざる神の手に恋路を邪魔されてるんですか?
なんでですか?ねぇ。

おかしくないですか?
いや「全年齢だからセックスしない」のがおかしいって言ってるんじゃないんです。
「物語の中で生きているキャラクターが『このゲームは全年齢対象だから』っていう現実世界のルールの割を食わされてるのがおかしい」って言ってるんですよ。

さっき述べたように『恋愛SLG』っていうジャンルのゲームは恋愛をシミュレーションするゲームなわけで。
であるならば、恋愛における大きな出来事である「セックス」をシミュレーションしないって言うのは、恋愛SLGとしては不完全だと思うわけですよ。



なのに、なのにですよ。
そんな、ゲームジャンルの根本を揺るがしかねない「不完全」の理由が「このゲームは全年齢だから」って。ゲームの中の世界と全く微塵もこれっぽっちも関係無いじゃないですか。
メタ設定も良い所じゃないですか。

「このゲームは全年齢だから俺は君の事が好きだけどセックスはしないよ!」って主人公が作中で喋ってるのに等しいんですよこれ。

そんな物語、冷めません?
自分はこれを「物語の外の都合で、物語の中の世界が不当に歪められている」と思うんですよ。


ただ、全年齢向け恋愛SLGの中にもちゃんとこの問題に対する回答を示しているものもあって。
例えば

「俺は君の事が大事だから、結婚するまでそういうのは無しにしたいんだ」

とか

「入籍するまでは純潔で居たいというヒロインの貞操観念を尊重している」

とか、そんな風に作中でちゃんとセックスに関して話し合う会話イベントが設けてあったり、2人がセックスをしない理由を説明してたり、そういう事がしてあるんだったら、それはもう「物語の中の要素」じゃないですか。

ここまで来れば「2人はこういう考えでセックスしないんだな」って、読み手としては納得出来るんです。これは「そんな2人の物語」なんだなって。


でも、そうじゃないのもあるんですよ。

普通に両想いで、普通に恋愛して。
でも、何故か、何故か全く性的な事を匂わせる話題が出てこない。
何故かは分からないけど主人公はヒロインの身体にはまるで興味が無いし、ヒロインもどうしてだか主人公の身体にまるで興味が無い。

自分が苦手なのは、こういう「性的な事を存在しないかのように扱う」タイプの恋愛SLGなんですよ。

『恋愛』をシミュレーションする上で切っても切り離せない要素を「全年齢だから」なんていうメタ的な理由でオミットしておいて、何食わぬ顔で「恋愛SLGです」みたいにお出しされるのが嫌なんですよ。

だから自分は『恋愛SLG』をやるなら18禁であるべきだと思うし、18禁の恋愛SLG、所謂『エロゲ』こそが、恋愛SLGの正しいカタチだと、この場を使って主張している訳で。


エロがあるからエロゲが好きなんじゃないんですよ。
「恋愛SLGはエロがあるほうが物語として自然だと思うから」エロゲが好きなんですよ。
そりゃあエロも好きですけど、エロゲが好きである前に恋愛SLGが好きなんですよ。


ヒロインのために頑張る主人公が。頑張る主人公に惹かれていくヒロインが。
二人が想い合い、通じ合って生まれる「恋人」という関係性が。
出会った頃からは考えられないような二人の姿が。想いが。営みが。


そういうのが好きで自分は恋愛SLGをやってるんですよ。


なのに全年齢だと、主人公とヒロインが結ばれる瞬間であり一つの節目でもある、愛を深めて確かめ合う行為である「セックス」をしないんですよ。「全年齢だから」なんていう、物語の中とは全く関係のない理由で。


こんなのサビだけスキップされた歌ですよ。味玉の無いラーメンです。海老天が乗ってないうどんです。変身シーンがカットされた仮面ライダーです。


主人公とヒロインの初体験なんて一番おいしい所じゃないですか!
やっと結ばれたんだなぁキミたちってニコニコ出来る所じゃないですか!
より深く繋がり合って理解し合う大切なステップじゃないですか!


そこを、そんな大事なところを。
「製作上の都合」なんてメタ的な理由で無かったことにされてたまるかってんですよ。
そんなメタ的な理由で主人公とヒロインの恋路を邪魔されてたまるかってんですよ。





だからこそ自分はこう主張したい。

『エロゲ』こそ恋愛SLGの正しいカタチ

であると。
















あ、ちなみに筆者は恋愛経験がありません。
悪しからず。

『9‐nine』シリーズの名脇役、深沢与一を振り返る『9‐nine』感想

どうも、緑のヒゲです。


皆様如何お過ごしでしょうか。自分はこのブログを二年もの間放置していたことに気づいてしまい、自分がどうしようもない鳥頭であることを突き付けられ頭を抱えています。こんな綺麗な伏線回収はしたくなかったですね。これをやるために二年もブログを放置してたわけではありません。ありませんから!


それはさておき、今回の記事はこちら


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ぱれっとが送る、全四作のアダルトゲームソフト『9-nine-』シリーズの感想記事となります。


この『9-nine』シリーズは


一作目『9-nine-ここのつここのかここのいろ』
二作目『9-nine-そらいろそらうたそらのおと』
三作目『9-nine-はるいろはるこいはるのかぜ』
四作目『9-nine-ゆきいろゆきはなゆきのあと』


この四作から成るシリーズソフトで、物語に登場する四人のヒロインそれぞれに焦点を当てた四つのソフトが織りなす連作です。


とまあ前置きの解説はこのぐらいにしておきましょう。そもそもこの記事はその性質上プレイしたことのない方に対しての配慮が全く出来ませんので、前置きの解説が必要な人はこの記事を読むべきではないでしょう。
即座にブラウザバックしていただいて、そのままFANZAのアダルトPCゲームショップから『9-nine-ここのつここのかここのいろ』を購入していただくのが最も有意義な時間の使い方だと思いますね。みんなこのゲームやって。


そんなわけでこの記事はネタバレ全開の既プレイユーザー向けの記事であり、それにかこつけてシリーズの概要や紹介みたいなことをこれ以上長々とするつもりはありません。さすがにその、書くの面倒なので・・・・・。





さらに言うならエロゲの感想記事なのにヒロインの話もしません。









エロゲの感想記事なのにヒロインの話もしません(重要)









なので、そっちが見たかったという方は申し訳ありませんが他の方がアップロードされている『9-nine-』シリーズの感想記事を読んでいただくよう、よろしくお願いします。


さて、結局前置きが長くなってしまいました。この記事で取り上げたいのは、そんな『9-nine-』シリーズに登場するこのキャラクター


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そう。皆さん大好き・・・いや、大好きだけは絶対違うな多分。皆さんご存知「深沢 与一」です。


このシリーズをプレイした皆さんは、きっとこのキャラクターに対して並々ならぬ感情をお持ちでしょう。恐らく悪い方向で。
ですが、自分はこのキャラクターが大好きなのです。


『9-nine-』シリーズで一番好きなキャラクター、与一なんですよね。リドルジョーカーの恭平の時といい、自分はエロゲの親友ポジキャラクターに惹かれる傾向があることは否定できないかもしれません。いや、ホモじゃないよ?
ちなみに二番目に好きなのは「ゴースト(レナ)」


とにかく今回の記事ではこの「深沢 与一」というキャラクターの行動を振り返りながら、シリーズを通して彼はどういう立ち位置から何を成していったのかを見ていこうと思います。


まずは与一のことをおさらいしましょう。彼は端的に言ってしまうとサイコパスです。他者への共感能力が著しく低く、また快楽殺人者でもあります。ですが、単語の意味合いとして「サイコパス=快楽殺人者」であるわけではありません。


彼は「サイコパス」であり、なおかつ「快楽殺人者」でもあるのです。より正確に言うと彼は人に限らずあらゆる命を踏みにじることが好きなので「殺人」だけにはとどまらないのですが。


さて、土台となる認識をお伝えしたところで、次は彼の成り立ちを考えましょう。


彼は生まれつき生命を踏みにじることに享楽を覚える異常者でした。そんな異常者である彼は周囲から全く理解されず、また彼自身も周囲と自己とのあまりの違いから常に疎外感と孤独感を感じていたことは容易に想像ができます。


これは自分の考えですが、おそらく彼は生まれつきサイコパスだったわけではなく、自分が殺戮を好む異常者であったことに起因する世間との「ズレ」によって彼自身の心の中に「自分自身」以外の大事なものを何一つ得られず、結果として「自分本位」の権化と化した、「サイコパス」になったのではないかと思っています。


生まれつきの「快楽殺人者」であるがゆえに「サイコパス」になったわけですね。他者が与一を理解できないように、与一も他者を理解できないのです。


さて、そんなわけで見事立派なサイコパスへと成長した与一くん。
与一くんがサイコパスであることを踏まえたうえでこの『9-nine-』シリーズを読み返すと、一作目である『9-nine-ここのつここのかここのいろ』の時点からその片鱗はありありと伺い知ることができます。
まずはこちら、与一の初登場シーンです。今にして思えば、この時点で彼がサイコパスであることは示唆されていました。


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翔から都がコスプレをしていたという話を聞いた場面。
「使える」の意味はいろいろあるでしょうが、文脈的には性的な意味合いが最も強いでしょう。


さて、この場面から読み取れるのは「与一は都に対して人間的な価値を感じていない」ということと「都に対して性的な価値を感じている」ことです。


与一の言葉を単純に翻訳すると「都の身体には価値を感じる」ということですね。


これは彼がゲス野郎だと単純に言っているのではなく、この時点で彼が「自分の欲求を満たすこと以外では他者への興味や価値を感じない」キャラクターとして行動しているということを語るシーンであると言えます。


ただ、この感想を抱けるのは「与一がサイコパスである」という前提を持っている場合のみであり、初見では「うわ、ゲス野郎だ」という認識で止まってしまいます。


大体の男は超かわいいクラスメイトのエロい写真があるなら是非ともオカズにしたいでしょう。だから、与一の言っていることが理解出来てしまう。
与一の性格である「自分本位」から出たセリフが、同じく「自分本位」なプレイヤーの欲求と重なってしまうわけです。


そういうところが本当によく出来たゲームだなと感心します。


また「欲しいのは彼女ではなく都合のいい女」であるという趣旨のセリフもあり、与一が根本的に「男女交際」に対して性的欲求以外の価値を見出していないことが伺えます。


与一の自分本位を示唆するシーンを幾つかピックアップしましたので、まとめて見ていきましょう。


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石化したと思しき生徒を見た後の反応。警察への説明という「めんどくさい」ことは翔に丸投げ。困惑し動揺している都との対比が効いている。

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快気祝いを口実にたかろうとする与一。与一の内面を知っていると、この場面の与一が翔の事を微塵も気に掛けていないことが分かる。

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都との仲を取り持つという体の場面。実際のところは翔がどうなるかはどうでもよく、ただ単純に「面白そう」という理由だけで事態を転がしていることが賭けという発言から伺える



日常パートにおける与一は「少々自分勝手なもののいい友人」というポジションに収まっているように見えます。


見えるというか、そう見えるように与一が振舞っているのでしょう。出来る限りクラスに溶け込み、正常者を演じる。
与一がクラスメイトをはじめとする他者と関わろうとするのは、異常者である彼が「正常」な世界に溶け込み生き残るための生存戦略なのかもしれません。


実際、どのシーンでも初見では「勝手な奴」という感想は抱けても「こいつサイコパスだ」という感想は抱けないようになっています。
これは、与一が正常な世界に溶け込んでいるということをプレイヤーが体感できる面白いギミックです。
与一の生存戦略の効果を身をもって知ることができます。


さてこのように、異常者なりに正常な世界との折り合いをつけて生きてきた与一ですが、そんな与一に転機が訪れます。
言うまでもありませんね、そう「魔眼」との出会いです。


この「魔眼」によって彼は「自分を破滅させることなく欲求を満たしうる力」を手に入れたわけですね。
簡単に言うと「バレずに殺せる能力を手に入れた」ということです。


快楽殺人者である与一にとって、法的なリスクの問題は常に付きまといます。
だからこそ、自分にとって唯一価値のある「自分自身」を守るために、わざわざ世間と折り合いをつけて生きていこうとしていたわけですね。


ですが「魔眼」との出会いで、与一はこの「自己保身」のハードルを大きく下げました。「バレずに殺せるんだから殺そう」と、そう思ったわけですね。


その結果は皆さんもご存知の通りでしょう。それはそれは凄惨な地獄絵図が生まれました。



さて、真面目な話はこのぐらいにしておきましょう。
とにかく自分はこの与一くんが滅茶苦茶好きなんですよね。


この与一くん、翔に対するカウンターとしてあまりにも魅力的な「悪役」なんですよ。


そもそも「エロゲの親友ポジ」っていう立ち位置が美味し過ぎるんですよね。親友ですよ親友。


翔は与一の事をなんだかんだ大事な「友人」だと思っているわけで。与一も翔を「友人」だと思っているわけで。
ただ、翔と与一の「友人」という関係の捉え方にはあまりにも致命的な齟齬があるんですよね。お互いに「友人」だと思っているけど、お互いにお互いの事を全く理解出来てない。理解できるはずがない。


エロゲの親友ポジにこんなクソ重感情キャラを持ってくる時点でなかなかですが、さらに、さらにですよ。
物語の最終盤ともなると「翔・ナイン」の繋がりの対比として「与一・イーリス」がぶつけられるわけです。


それもお互いの相棒が持つ「オーバーロード」による圧倒的に不可侵な関係性を加えて。


翔が「信頼」で仲間との関係を築いていることに対比した、与一の「利害」の繋がり。
翔の「皆の為」に対比する、与一の「自分の為」。
翔の「レナ」と、与一の「ゴースト」。
翔が「仲間が使う力を合わせる」「協力」に対比した、与一の「自分が力を奪い使う」「利用」。


もうなんというか、ここまで翔との綺麗な対比を与えられた悪役が魅力的でないはずがないんですよね。少なくとも自分にとっては。


「深沢 与一」というキャラクターは、とにかく「憐れ」なんですよね。自分のために動いてくれている蓮夜に対しても、結局最後まで何一つ価値を感じられなかった、そのあまりにも深い隔絶。「翔と仲間」の対比としての「与一と蓮夜」。
たとえ蓮夜が与一の「理解者」にはなりえないにしても、少なくとも与一は、与一以外の「正常」から見れば決して孤独ではなかった。
与一が憐れなのは、最後までそれに気づけなかったこと・・というか「それに気付ける精神性を持ち合わせられなかった事そのもの」でしょう。


自分が与一を気に入ってるのは、そういう「周囲からの優しさ」にすら全く絆されることなく、気付くこともなく、自分の事だけを考えていた、本当に本当の「邪悪」であり続けたからというのが一つ。
与一というキャラクターは、基本的にブレません。


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与一と唯一「協力」したように見える場面。だが、実のところ与一は「邪魔な翔が追ってくるから」という理由で魔眼を手放しているし「邪魔な翔に疑われて再び関わりを持ちたくないから」魔眼と共に幻体の能力を手放している。自分を脅かす存在から距離を取るための一手であり、結果的に翔の助けにはなっているものの、助ける意図は微塵も無いのだろう。本当にブレない。


最初から最後まで、ただただ「邪悪」として物語に登場し続けていた。与一は物語の始まりから終了まで、何一つ変わることが無かった。
日々悩み、苦悩し、成長し「未完成」であった翔に対しての、既に「完成」してしまっていた与一。


自分は、与一が最初から最後まで何も変わらなかったという事が、何も変わっていないにもかかわらず、あまりにも印象を変えてしまうキャラクターの魅せ方が、始まりと終わりで印象が変わってしまう「深沢 与一」が、魅力的に見えて仕方がない。


キャラクターはブレず、光の当て方のみでその印象を180度変えるって、本当にすごいと思うんですよね。
上質なシナリオの成せる技でしょう。


自分はそういう演出的な意味でも「深沢 与一」というキャラクターをとにかく気に入っているのです。


さて、そんな与一を語る上で外せないのがこの場面。
そんな「ブレない」与一が、おそらく作中で唯一「ブレてしまった」場面です。


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最終決戦、与一は「イーリスに共感した」と零し、無意識に自分とイーリスを重ねて見ている・・・が。


与一はそもそも、幼少期から今の今まで続いてきた圧倒的な「孤独感」が原因でそれはそれは立派なサイコパスに成長しました。
極めて理性的に「自分が好きに生きると自分を滅ぼす」ことを理解しています。
今までも、自己の欲求と折り合いをつけて「正常」を演じることでひとまずの平穏を得ていました。


だからこそ「好きに生きたい」というイーリスの姿勢は、与一にとっては本当に、本当に初めての「共感」だったのかもしれません。


そして無意識に自分とイーリスを繋げて話してしまう。与一がサイコパスとして成長した原因は「孤独」であり、もっと端的に言い表すなら「寂しい」という感情が初期衝動と言えるでしょう。


だからこそ、初めて「共感」できたイーリスを無意識に自分と繋げてしまいます。


ここが「深沢 与一」を語るうえで絶対に外せない最大の皮肉であり、彼の魅力です。
つまるところ彼は「寂しかった」のです。異常に生まれ、正常に馴染めず、自分を理解する人に誰一人巡り合えなかった。
そんな彼が最後の最後で「共感」なんてことを口にします。
これは、ある意味で与一が初めて見せた「正常」かもしれません。
ですが、イーリスからの言葉はこの有様です。


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なんと、なんと憐れで美しい裏切られ具合でしょうか。
いえ、実のところイーリスは裏切っていません。与一が勝手に共感して、勝手に自滅しただけです。


何よりも皮肉なのは、与一が「自分は寂しかった」という自覚が無いことです。


「寂しかったから初めて共感できる人を見つけ、全くの無意識に仲間意識を抱いていた」わけです。
仲間なんてわからないと、正常なんて理解できないと余裕をかましていた与一が、最後の最後に自分の無意識の寂しさに負けて仲間を作ろうとした挙句、梯子を外されて利用されるのです。


ここまで、ここまで綺麗な「悪役」がありますか。ここまで魅力的な「悪役」がありますか。
何という皮肉、どこまで憐れなのでしょう。
今まで散々自分は孤独だ一人だとカッコつけて言っていたキャラが、もしかして一人じゃないかもと初めて無意識な希望を抱いた挙句、その希望を粉々に打ち砕かれて利用されるわけです。


それも、唯一本当の意味で「友人」となれるはずだった蓮夜を自分の手で殺そうとした挙句の、この有様です。


与一が最も憐れな目に遭っているのは間違いなくこの場面でしょう。
この場面はある意味「深沢 与一」という人間が初めて見せた弱みであり、最大の見せ場と言えます。


「深沢 与一」は、悪役としてあまりにも魅力的です。


身内全てを切り捨て坂を上り、周囲全てを利用し山を登り、山頂にたどり着くその一歩手前で足を滑らせたのです。
ですが、与一は身内を全て切り捨て周囲を全て利用し尽くしました。


結果、いざ足を滑らせたとき与一が頼れるものは何も残っておらず、故に与一はそのまま崖に転落しました。


これを、この、あまりにも「自業自得」な、「因果応報」な、こんなに美しい「悪役」の結末がありましょうか。


だから自分はこのキャラクターが好きなのです。
あまりにも「異常」な「悪役」が、最後の最後に今までの行い全てに足を掬われる。
それは、人間離れしていた与一が、初めて見せた「人間」としての顔だったのかもしれません。

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『9-nine-』シリーズにおいて、最後の最後まで魅力的な「悪役」であり続けた「深沢 与一」というキャラクター、
このキャラクターが居るからこそ、対比し対峙する翔や仲間たちが輝かしく見えるのです。
ドス黒い闇に対する、輝かしい光。

光を光として輝かせるため、闇として『9-nine-』を支え続けたこのキャラクターが、自分は大好きなのです。