『放課後シンデレラ』感想。圧倒的な完成度が織り成す「普通」が心地良い傑作
どうも、緑のヒゲです。
皆さんは「普通のエロゲ」ってどんな物だと思いますか?
自分はそれはそれはゆずソフトを愛してやまないにわかエロゲーマーな訳ですが、では果たしてゆずソフトの作品が「普通」かと問われると、結構色んなファンタジー要素を取り入れててバラエティ豊かですし、図書室オナニーとかの飛び道具を用いて来る事もあり「普通」では無いかもなぁ・・・なんてことを思ったりするわけです。
特にこの御時世エロゲに限らず、突飛でキャッチーな作品のあらすじと設定そのものが作品の広報活動の一環であることも珍しい事では無く「普通ではない」事を競い合うような一面も無いとは言えないでしょう。
そんな時代に白手袋を投げ付けるように現れた「普通」の権化のようなエロゲこそ、今回感想を喋り倒すこちら。
『放課後シンデレラ』です。
さて、このブログの筆者は大変な面倒臭がりでして、いつも感想を述べるゲームの概要やらあらすじやらは「大変聡明な読者の方々であるならば既にご存知のことでしょう」という言い訳を頼りに丸投げしているのですが、今回はちょっと記事の主題にも関わってくることなので、本当にざっくりですがご説明を。
「放課後」をテーマに、クラスメイトや先輩後輩と下校したり、ちょっと寄り道してみたり、街で出会った別の学校の娘と話してみたり。
そんな「普通の学園生活」を描いたエロゲです。
・・・・・・・・・凄くないですか。
このゲーム、この御時世に、至って普通の事しかやってないんですよ。
突飛な要素、ゼロです。
突然吸血鬼になったりしませんし、伝説の御神刀をへし折ったりもしません。
超能力に目覚めたりもせず、交通事故で死んだと思ったら幼馴染みのパンツを見た朝に時が巻き戻ったりもしません。
「普通」なんです。「平凡」と言い換えても良いでしょう。
「普通」とか「平凡」って難しいんですよ。
物語を転がす上で必要になる燃料がほとんどありませんし、いざお話が始まっても、そもそも「普通」なんだからそこまで大きく予想を越えるようなことも出来ない。
ある意味究極の縛りプレイですよ。「普通」縛り。
そんな難しい「普通」という題材で、ここまで完成度の高いエロゲに出会えるとは。
そんなわけで、まずは攻略順に各ヒロイン√の感想です。
あ、ネタバレの嵐なのでご注意を。
宇佐川 雪子
もう、めちゃくちゃ可愛いですね。なんですかこの娘。決戦兵器か何かですか。何と戦うのかは知りませんが。
出逢いの時から始まりずっと続いていた主人公への意地悪やからかいの数々が巡り巡って自分が主人公へ想いを伝える際の足枷になると言うのは、ありがちではありますがとても綺麗なお話の流れで良かったです。
「憧れの先輩」である雪子にからかわれ常に異性を意識させられながらも、男としていい所を見せようと頑張る主人公も良かったですね。
何よりも特筆すべきは「ありがち」でありながらも読んでいてしっかりとこちらを楽しい気持ちにさせてくれるこのヒロインの魅力です。
逆に言ってしまえば、ヒロインが気に入らなければ楽しく読むことは出来ないでしょう。
エロゲなんてものは得てしてそんなものではありますが、中でもこのゲームはそれが顕著ですね。
築島 つくし
この娘は先程感想を述べた雪子とは逆で主人公の後輩に当たるのですが、お話としても「雪子にアタックする主人公」の逆で「主人公にアタックするつくし」の構図になっている部分がありますね。
つくしが比較的序盤から主人公に惹かれている理由は言ってしまえば一目惚れなのですが、物語冒頭の占いの下りで「異性を意識させる下地」をキャラクターの中に作っているのが大変芸が細かくて良かったです。
キャラ紹介と一緒にこういう「キャラクターに厚みを持たせる情報」を提示してくれるとその後のキャラクターの行動にしっかりと説得力が生まれるので、つくしの態度もすんなりと受け入れることが出来ます。
細かいながらもしっかりとフォローが効いていました。
「気になる先輩にアタックしたいつくし」と「可愛い後輩と色んな話をしたい主人公」がお互いを意識しながらステップアップをしていく流れが丁寧に描かれていましたね。
王城 茉莉愛
すいません自分はこの娘だけさっぱり受け入れられませんでした。
この娘というか、この娘の√ですね。
この√だけ作品から浮いているというか、違和感が凄いんですよ。
出逢いから恋人になるまでの流れは他のヒロインと同様に完成度が高く、住む世界が違うと言ってもいいお嬢様が、身も知らぬ他人であるはずの主人公に対していっそ強引とすら言える押しの強さでアタックして来る理由も「まあ若干夢見過ぎかなーこの娘」とは思いましたけどきっちりと描かれていましたし、その点は特に文句は有りません。むしろ良く出来ていると言えます。
しかし、しかしですよ。
この√の主人公、いくら何でも何もしなさ過ぎです。
学生が同居するのはまあ良しとしましょう。ですが、ヒロインの家に転がり込んだ挙句、その生活にかかるありとあらゆる費用を全部ヒロインが出すのはおかしいでしょう。
というか、正確言うとお金を出しているのはヒロインですらなくヒロインの実家、つまりは親です。
いやいやいやいやおかしいでしょう!
生活費はヒロインの親持ちでヒロインと同居って甲斐性無しもいい所では・・・・・・。
まあこんな感じで意味不明な条件の同居をあっさり受け入れる主人公もどうかと思うんですけど、じゃあ肝心のヒロインの親はって言うと、なんと特に不満も無く了承しちゃってるんですねこれが。
挙句テレビで見た観光地に日帰りで旅行して帰りはヘリコプター(費用は全てヒロインの親持ち)とか、主人公と並んで授業を受けてみたいから主人公の学校に一日編入(親の力で)とか・・・・・・。
ヒロインがひたすら好き放題して、主人公はそれを幸せそうに享受しているだけという。
言ってしまえばヒモですよね。この√の主人公は完全にヒモです。挙句「茉莉愛の幸せを考えろ」とかヒロインの親に説教しますからね。訳が分からない。
他の√の圧倒的な完成度と比較して、この√だけあまりにも酷い出来でしたね。落差がすごい。
この√だけ別のゲームなんじゃないでしょうか。
田寄 多乃実
ポンコツですね。ポンコツヒロインです。
ですが、だからこそ生まれる等身大の関係性というか、毎回全力でぶつかり合う主人公とヒロインがとても心地良いです。
ですが何よりも良かったのは「田寄 多乃実」という存在そのものがこの作品を成立させている点です。
同じ転校生として彼女と出逢い、その価値観に触れたことで主人公は「変わろう」という決心をして、日常生活や女の子に対して積極的になるわけですが、これってつまり「主人公の行動の動機付けをしている」んですよね。
どうして主人公は学校帰りにこんなに寄り道するのか。どうして主人公はこんなに色んな人に声を掛けているのか。
そういう「ゲームシステム上生じる違和感」みたいなものを、一人の女の子との出逢いを描く事で全て払拭しているわけです。
大変にスマートなやり口と言えるでしょう。
また多乃実√終盤で明かされる、そんな主人公の行動を裏付ける多乃実の価値観の起こりすらも、実は幼い頃この街に住んでいた主人公の行動によるものだったという二重底の構えは本当に唸りました。
結構色々物語について語ってるように思いますけど、ぶっちゃけこのゲームって物語なんてあって無いような物でして、基本的にはヒロインとステップアップしてイチャイチャするだけのゲームなんですよ。
ですがこのゲームはそんな「あって無いような物」の物語の中で、しかしきっちりと作中キャラクターの行動の動機付けや伏線の配置と回収をこなしていて、その手際には脱帽です。
「この作品を成立させるために最低限やらなければいけないことが何か」をキッチリと分かっていて、そういう要所要所の物語のキメを怠らないんですよね。
そんな風に物語のケアが行き届いている世界だからこそ、余計なことを気にせずにヒロインとのイチャイチャを楽しめるわけです。
あ、茉莉愛√の事は忘れてください。アレはダメです。あの√だけ製作スタッフ違うんじゃないの。
同じ作品なのが信じられないレベルで完成度に差があるんですけど・・・・・・。
長南 陽佳
もう、ええ。言葉が見つかりません。最高としか言いようがありません。
とりあえず見た目が滅茶苦茶好きなんですけどそれは置いておいて、この娘が何よりも素晴らしいのは「幼馴染みとしての距離感」なんですよ。
昔は仲が良かった男の子が街に帰ってきて、同じ学園に通う事になって。
昔と全然変わらない所を見て懐かしくなったり、逆に、昔とは変わった所を見つけてドキっとしたり。
幼馴染みのよしみでちょっと世話を焼いてみたり、かと思えば、幼馴染みだからこそ知っていた事で心の中を見抜かれてしまったり。
もうほんとに。100点です。こういう、付かず離れずの幼馴染みという関係性の描写がなんと丁寧な事か。筆者はもう、共通√のプレイ中感無量でした。
これが幼馴染み。これこそが幼馴染み!
逆に主人公視点から見ると、陽佳は本当に「変わったなぁ」という印象なわけです。まあ滅茶苦茶ギャルになってますからね。
ですがそこは幼馴染み、こちらも「変わった」中に時折見せる「変わってない」陽佳の姿を見て、あの頃を懐かしんだりドキドキしたり。
本当にお互いの距離感が素晴らしい訳ですが、この作品はそれだけに留まりません。
陽佳√終盤で、主人公への初恋と引越しによる別れが幼き日の陽佳に齎した物がなんだったのかが明かされます。
いつも主人公に憧れ、守ってもらっていた。陽佳にとっての「ヒーロー」であった主人公が居なくなり、陽佳はこのままではいけないと「変わろう」と思うわけです。
ここがまたこの作品の良く出来ている所で、このエピソードって、それまで地味で大人しかった陽佳が、今どきの明るいギャルに変わる切っ掛けを描いているわけです。
このエピソードを経て、地味だった陽佳が明るいギャルになり、主人公と再開した時に「変わったな」と驚かれる物語冒頭の場面に繋がる訳なんですよ。
こういう細かなケアというか噛み合いが本当に素晴らしいんですよ。
「昔は大人しかった幼馴染みが今はギャルになっててビックリ」ってだけじゃないんですよ。
そこで「どうしてそんな劇的な変化が起こったのか」という一歩踏み込んだ所にまで理由付けされているのが、作品の完成度に大きく貢献しています。
キャラクターの行動の重みが違うんですよね。そのキャラクターの「人生」と言ってもいい。
これまでの人生でどういう経験をして、だからこういう性格になった。こんな事があったからこれが好きになった、嫌いになった。
そういう「積み重ね」をしっかりと感じさせてくれる。
そしてそう言う積み重ねを感じるからこそ、主人公と触れ合っているヒロインに対して、キャラクターとして大きな魅力を感じる事が出来るんです。
ちなみに自分が幼馴染みが好きなのは、他と比べてそういう「積み重ね」の描写が多い傾向にあるというのも一因かもしれません。
そんなわけで、細やかな描写に裏打ちされたこの陽佳というキャラクターがこれまた可愛いこと可愛いこと。
やっぱり小悪魔ギャルっていうのは一つの夢というか、逃れられない魅力がありますよね。とても好きです。
総評・・・の前に。
サブキャラクターとこの作品世界について
この作品はヒロイン達が抜群に可愛いです。
ですが、それだけではない。
この作品が持つ空気や世界、その完成度を支えているのは、1人で帰る時にも発生する数々のイベントと、クラスメイトをはじめとするサブキャラクター達であると言えるでしょう。
先程も言いましたがこのゲーム、ぶっちゃけシナリオなんて有って無いような物なんです。
昼間はクラスメイトとバカ騒ぎをして、放課後はヒロインと話しながら帰ったり、寄り道したり、時には1人で帰ってみたり。
何度もヒロインと一緒に帰るうちに、ただの友達とは少し違う、異性を意識する雰囲気になってしまったり。
そんな日常と、その中で育まれ一歩ずつ進んでいくヒロインとの関係のステップアップを描いたゲームなんですよね。
そんな「普通」の「平凡」な物語を、しかし退屈させずに読ませてくれるのが、圧倒的に濃いサブキャラクター達です。
毎日毎日飽きもせずバカ騒ぎをするクラスメイト。いつもヒロインと一緒に帰っている、ヒロインと仲の良い友人。
そんな「日常の学校生活」を演出してくれるキャラクター達が居るからこそ、このゲームの主な舞台である「放課後」という時間帯に重みやリアリティが出る訳です。
そもそも「放課後」というのは「学校」があるからこそ生まれるものです。
だからこそ、この「放課後」をちゃんと「放課後」として成立させるためには、主人公達にはちゃんと学校に行って貰わなければいけない。
サブキャラクター達はそんな、このゲームにおいて必要不可欠な「学校」という場所、「登校」という行動を演出するための、まさしく縁の下の力持ちなのです。
この縁の下の力持ちのおかげで、このゲームは「放課後」を「放課後」として成立させる事が出来ているのです。
また、ヒロインと一緒に帰らない、1人で帰る放課後にも様々なイベントがあります。
クラスメイトと帰ったり、ヒロインの友達とばったり遭遇したり。迷子を見つけたり、道案内をしたり。怪しげな店に連れ込まれかけたり。
この作品はそういう「日常」の表現や描写に対して全く手を抜いて居ないんです。
しっかりと面白く騒がしい「日常」が、色々な人が生きる街が、世界が、そこにはあります。
だからこそ、そんな日常の世界で起こるヒロインとの出逢いや触れ合いが、恋人という特別な関係が、より鮮明に、魅力的に輝くのです。
総評
このゲームは、大して中身の無いゲームです。
ある種、キャラゲーの極地と言ってもいいでしょう。
重厚なシナリオも無いですし、予想を超えるような驚きの展開も有りません。主人公も、ヒロインも、至って普通の人間です。
ですがこのゲームには、この世界には、確かな魅力が有ります。
学校に行って、クラスメイトとバカ騒ぎして。放課後は勇気を出して気になる女の子に声を掛けてみたりして。
光り輝く「普通」の世界が、愛しい「平凡」な日常が有ります。
今日は誰と帰ろうか。何処を通って帰ろうか。
そして、そんな普通の世界を生きる可愛いヒロイン達が居ます。
そんな「普通のエロゲ」である
『放課後シンデレラ』
一歩ずつ一歩ずつ進んでいくヒロインとの恋を楽しめる、恋愛SLGの新たな傑作です。
・・・・・・茉莉愛√以外は、ね。