『オトメ*ドメイン』感想。「王道」を往く傑作。奇抜な設定を支える必然性の土台
どうも、緑のヒゲです。
このあまりの更新感覚の短さに驚かれている事でしょう。
一番驚いているのは勿論自分でありまして。
そもそもこのブログの更新間隔が異様に長い事を把握する程このブログをずっと読んでくださっている方など多分居ないんじゃないかなと思いますので、そういう意味では一番も何も自分しか驚いていないのかもしれませんが。
さてそんなわけで今回喋り倒すエロゲはこちら
『オトメ*ドメイン』です。
このブログも完全にエロゲ感想ブログと化しましたね、と、これはこの前言いましたか。
まあ自分が喋り倒せることってそれぐらいしか無いので当然の帰結でしょう。
では今回も例によって例の如く、このゲームの詳しい内容は自分で調べやがれこんちくしょうの精神で概要の説明は全てかっ飛ばし、作品の感想を書き殴っていきましょう。
共通√
この作品が色々とぶっ飛んだ代物である事は公式サイトのあらすじとキャラ紹介を読んだ段階で分かっていたつもりでしたが、開幕のシーンでその辺の認識を軽く蹴り飛ばされましたね。
まだまだ自分の認識は甘かったんだと。
作品の開幕、主人公の目の前でペットボトルに放尿するヒロイン。もう、なんでしょう。ここまで来ると何を思えば良いのかも分からなかったですね。
ただこれは後で風莉√感想で詳しく話すんですが、この開幕のシーン、伏線なんですよね。
っていうか、共通√そのものが、ひいてはこの作品の骨格を構成する全てがしっかりと風莉というキャラクターの伏線になっていて、話題性を狙った単なる出オチでは無いって所がとても素晴らしいですね。
この作品においてそれは滅茶苦茶だろってなる要素は湊くんの可愛さぐらいですので。
冒頭のシーンだけで随分と喋ってしまいましたが、冒頭に限らずこの共通√、侮れない出来をしています。
結局の所この共通√で何が描かれたかと言うと、男なのに女装して女子校に編入した挙句女子寮に入るなんていうとんでもない自体に直面した主人公こと湊くんが、その事態、その生活を受け止め、ある程度自分で納得出来る所まで折り合いを付けるまでの過程なんですよ。
そもそも。
男が女装して女子校に編入って、もう端から端まで問題しか無いんですよ。
問題っていうかもうほぼ犯罪ですね。
そんな犯罪的な事態に対して「こうなったからには仕方がない」みたいに開き直られると困るんですよ。
どんなに開き直られようと、それが犯罪であることは変わりないわけで。
そんな犯罪を「仕方ない」で流されてヒロインとイチャイチャされましても、いやいや待て待てってなるわけです。
ちなみにこういう大きな問題を「仕方ない」で流された結果自分が受け入れられなくなったゲームがゆずソフトの『天色*アイルノーツ』でなのですが、このゲームに関してはまた機会があれば話すとしまして。
この共通√が描いているのは、その問題に対するシナリオ上でのフォローなわけですね。
地の文でも度々「こんなのは正しくない」「皆を騙している」と葛藤している湊くんが、共通√の終盤ついにその罪悪感に耐えられなくなり、黙って寮を出ていこうとする訳です。
そんな中、寮に住む面々が湊くんのことを受け入れて、この学園こそが湊くんの居場所である事をサプライズパーティを通して湊くんに伝えるわけですね。
そもそもなんですが、物語開始時点の湊くんは唯一の親族であった祖母を亡くし天涯孤独となったばかりでして。
それに加えて前述した問題による葛藤や自己嫌悪、罪悪感を常に抱えて生活している訳で。
こんな状態で、他人に対して愛だ恋だと考えるような精神的余裕がある筈無いんですよね。
そんな湊くんに対して、同じ寮の面々であるヒロイン達が救いを与える。
この一悶着によって湊くんの精神的な安定が担保され、ヒロインとの恋愛を意識出来るようになるわけですね。
それと同時に、この作品において湊くんが恋人として選ぶキャラクターがこの三人の中の誰かである事への理由付けとしても機能します。
自分を救ってくれた存在がこの三人なわけですから。
このイベントで、後に続く個別√、各ヒロインとの恋愛に対する土台が出来上がるわけです。
またこの最後のイベント以外の部分でも、この共通√はしっかり各ヒロインの個別への準備を着々と進めています。
風莉が湊に対して無防備過ぎるのがそうです。
湊が寮の家事をたった一人でほぼ全て引き受けているのもそう。
ひなたがやたらと昼食を湊達と一緒に食べたがるのもそう。
特に風莉周りはとても丁寧です。
その辺りは風莉の項にて。
とにかく全体的に「個別√へ繋げるための土台作り」に終始しています。
というか本来個別√の役割っていうのはこれだと思うんですけど、これを実際にちゃんとやってくれるだけでこんなに違うものなんだなと改めて感じますね。
直前に書いた『金色ラブリッチェ』の記事でも再三触れましたが、物語って言うのは兎にも角にも土台が重要だと自分は思っていて。
土台がしっかりしていると、説得力が違いますからね。
その辺のあれこれに関しては『金色ラブリッチェ』の記事を読んでくださいと丸投げの宣伝を挟むことにして、続いてはそんなしっかりした土台の上で繰り広げられる個別√の感想へ参りましょう。
ひなた√
とりあえず、なんと言ってもしっかり可愛いですね。これだけでも凄いことです。キャラクターが可愛いというのは当たり前のようでいて、実際はそれ一つだけでもブランドの売りになる重大な要素です。
その上この「大垣 ひなた」というキャラクターを形作る要素それぞれにキチンとした理由付けがあり、その理由自体も物語と深く関わるような要素であるのが大変印象が良かったですね。
例えばひなたを語る上で真っ先に出てくる要素である所の「厨二病」ですが、これは昔、親の人形として生きていく以外に生きていく術を見つけられなかったひなたが初めて手に入れた自我、アイデンティティなわけです。
そんなひなたと共に過ごすうちに湊は惹かれ、紆余曲折を経て・・・本当に紆余曲折を経て恋人になる訳ですが、この先がまた良かった。
かつて自分にアイデンティティを齎した友人との再会を経たひなたは、自分と違い厨二病を卒業していた友人を目の当たりにし、心の拠り所であった「厨二病」という自我が揺らいでしまう訳ですね。
そもそもひなたが厨二病であった理由のひとつは件の友人との関係が前提としてあったわけなので、それが揺らいでしまった今、ひなたは厨二病で居ることそのものに意味を見いだせなくなります。
その結果、厨二病を卒業しようと試みるひなたですが、そもそも厨二病というのはひなたの自我そのものなわけで、厨二病を捨てるという事は自我を捨てることと同義です。
そして、湊が恋をしたのはひなたの外見や身体ではなく心、自我の部分な訳で。
自我を捨て「人形」に戻ったひなたを受け入れられなかった湊は、ひなたに自我を、厨二病を取り戻してもらうために一つの行動を起こします。
ひなたの厨二病を全面的に肯定し、かつてひなたの厨二病仲間が担っていた「ひなたが厨二病で居る理由」を、湊自身が担うという選択です。
ひなたにとって厨二病とは自我である事から、この湊が齎した厨二病の肯定は、ひいては「ひなたの自我を肯定する」ことに繋がるわけですね。
今まで大多数の人間にとって疎まれる要素でしかなかった厨二病という自我を肯定して貰えたひなたは、晴れて厨二病を、自我を取り戻し、湊と共にこれからを歩んでいくと。
綺麗に纏まった物語です。特に秀逸なのはやはり、大垣ひなたというキャラクターを構成する大きな要素である「厨二病」に対しての背景がしっかりしている所でしょう。
特に「なぜ厨二病になったのか」と「なぜ厨二病を辞めないのか」の二点に対する回答がしっかり示されていて、後者の「なぜ辞めないのか」の理由が揺らいだ際に本当に辞めてしまうというのがシナリオ展開の理由付けとして凄く良かったですね。
柚子√
『青春フラジャイル』の記事でも書いた事があるんですけど、自分は無自覚に迷惑を振りまくヒロインが全体的にダメなんですよね。
その例に漏れず柚子もそんなに好きでは無いんですけど、お話自体は良く出来ていましたね。
特に良かったのは、この√もひなたと同じくシナリオ展開の理由付けやキャラクター背景の理由付けがしっかりしていた点です。
柚子にずっと持ち込まれているお見合いの話なんかは本当に良かったですね。
政略結婚の駒という重い理由をチラ付かせておいて、その実本当の原因は柚子の家事が壊滅的である事で、お見合いは完全に親からの思いやりだったと。
親の心子知らずとはまさにこの事。
またこの柚子√と先程のひなた√はシナリオの面で鏡合わせの側面がありまして。
例えばひなた√では、湊は自分が男であることをそこそこの中盤になるまで言い出せず思い悩んでいる訳ですが、対する柚子√では√の開幕で柚子に言い当てられてしまったり。
また、ひなたという柚子はそれぞれ「家事が壊滅的」「重度の厨二病」という、厄介気味のキャラ付けがされているわけですが、ひなた√では、ひなたの厨二病は欠点では無く個性であると「肯定」する物語であるのに対して、柚子√は家事が壊滅的である事を明確な欠点として「否定」し、出来るように努力するという物語になっています。
こういう物語構造の対比は大好物なので、そういう面でも良い作品です。
その花嫁修業を通して普段湊が当然の様に担ってくれているありとあらゆる寮の家事の大変さ、ひいてはその思いやりを理解出来るようになるというのも、湊が家事を担っていることを共通√から長らく描写し続けていたのが存分に活きています。
美しいですね。
そしてその説得力が、柚子自身が√後半で抱く「私では湊を幸せにしてあげられない」という思いに対する裏打ちとしても機能する訳です。
お話の流れが単発エピソードの繰り返しじゃ無いんです。ちゃんと大きな流れで全部繋がってるんですよね。
またこの√を語る上で絶対に外せない要素、風莉の存在も本当に良かったですね。
物語中盤にコメディの一貫のような流れで登場しそのまま新聞部のカメラマンとして収まる盗撮犯ですが、その時に張っておいた「盗撮写真の受け渡し先」という伏線をここぞという場面で回収してくる訳です。
ここのイベントは本当に良かったですね。
柚子√のシナリオを動かす意味でもそうですが、このイベントが風莉√への布石になっているのも手際が良くて美しい。
盗撮写真が発見されたのは柚子が湊と恋仲になる前で、それはつまり風莉はずっと前から湊の事が好きだったという事になります。
大切な友人の片想いを台無しにしてしまった罪悪感と、湊と自分ではとても釣り合わないという諦観。
この二つの挫折が、柚子に対して「学校を辞めて親の言う通りに結婚する」という、人生を揺るがす大きな決断をさせるわけですね。
この、決断の理由が一つではなく二つというのも良いですね。
恋人と友人、学園での柚子を支える二つの柱、その両面で柚子は挫折したわけです。
片方だけであれば、まだもう片方を心の拠り所にしてゆっくり乗り越えられたかも知れませんが、両方一気に来た事でどこにも寄り掛かれなくなってしまった。
この作品、ひなた√の時もそうでしたが、柚子√においてもヒロインは割と本当に精神的なドン底まで落ちるんですよね。
そしてそれを迎えに行くは我らが湊くん。
前述した「親の心子知らず」を、この最後の場面で明かすのも、物語のオチとしての側面は勿論のこと、その前の柚子の絶望との対比で一気に気が抜ける演出として良かったです。
ヒロインの事をそんなに気に入っていなくても、その物語自体がちゃんと作り込まれていれば、ある程度しっかり楽しむことは出来るんですよね。
ストーリーテリングって、大事。
当然ですけど。
風莉√
いよいよ来ました。満を持しての風莉√です。
風莉に関してはもう本当に、作品内での描写全てが丁寧で素晴らしいです。
共通√の項で軽く触れましたが、ツカミとなる開幕のシーンがただの出オチでは無く伏線として機能しているのが上手いですね。
風莉が湊に対して無防備過ぎるという話です。
風莉√中盤で明らかになりますが、そもそも風莉は物語開始時点で湊の事が好きで、湊を性的に誘惑して落とそうと試みているんですよね。
しかし風莉はあらゆる事に対して大変不器用で、結果としてこんな突飛な行動に出てしまったと。
そのあまりにも凄まじい不器用さには最早頭を抱えるしかありませんが、必死であることは伝わってきます。
また、ひなた√柚子√共に、湊が恋をしている時それを最初に察知するのは風莉なんですよね。
風莉は湊の事が好きで、ずっとずっと湊の事を見ているわけで、だからこそ他の人では気が付けないような些細な変化にも気が付く、付いてしまう。
こういう細かい伏線も素晴らしいですね。
いい仕事をしています。
幼い日、自分を助けてくれた湊に恋をした風莉は、それ以来、湊に見合うような自分になるための努力を試みているわけです。
その努力の一貫が「学生でありながら学園の理事長を務める」事であり、このことが巡り巡ってゲーム開始時に「湊を女子校に編入させられる力を持つ」ことに繋がっています。
この因果を数珠繋ぎにしたような設定が自分は凄く好みで。
これは、男が女装して女子校に編入するなんていうとんでもない設定を、出来る限り無理なく突き通すための理由付けなんですよね。
言い訳と言ってもいい。
しかしその「言い訳」の因果を数珠繋ぎにする事で、ある種の説得力、その世界での「必然」を作り出しています。
親のゴリ押しとはいえ、曲がりなりにも理事長となった風莉の力によって、湊を学園に迎え入れても違和感の薄い状況を作品世界の中に作り出したというわけです。
その上、そもそも風莉が理事長なんていう無理のある役職を持ったきっかけは湊にある。
そしてそのきっかけこそが、風莉が天涯孤独となった湊を助ける理由と。
幼い日の出会いから始まる因果が、巡り巡ってこの作品の設定を成立させる土台として機能しているんです。
突飛な設定であればあるほど、その設定を押し通すだけの説得力が必要です。
それが無ければ、作品世界はただ都合の良い箱庭でしかない。
虚構である創作物が、現実に対してどれだけ上手く嘘をつけるか。
その嘘を、作品世界の中の物理法則として読者に認めさせられるか。
ここの腕前次第で、作品のリアリティは大きく変わるでしょう。
『オトメ*ドメイン』はそれが上手い。
以前紹介した『放課後シンデレラ』もそうなんですが、自分はこういった、設定に対する裏打ちがしっかりと成されている作品が非常に好みです。
ですが風莉√の強みはこれだけに留まりません。
というかさっきまで喋っていた事は言うなれば「完成度の高い作品の前提条件」みたいなもので、本題はここからなんですよ。
風莉が「湊に相応しい自分になりたい」という理由で親に無理を言って始めた理事長業。
共通√の時点から新聞部と提携し、しっかりと「西園寺 風莉」の名前で学園の様々なトラブルを解決し、より良い学園、楽しい学園を作ろうと活動していた風莉。
プレイヤーは、湊は、ずっとその努力を見てきました。その姿を見てきました。
風莉なりに、ちゃんと「理事長」という役割を全うしようとしていた。全う出来ていた。
だからこそ、風莉√の終盤、風莉が理事長を解任されるとなった時、それに対して反対する友人達、生徒達の姿に説得力が生まれます。
形だけ、親の権力だけで理事長をしていたり、この作品のシナリオライターから、単に「理事長」というキャラクター設定を与えられただけの理事長では、このシーンにこれだけの説得力を与えることは出来なかったでしょう。
作品全体を通してずっと風莉の頑張りを描き続けていたからこそ「学生で理事長」なんていう滅茶苦茶な状況を心から肯定出来るんです。
この作品を通して風莉がずっと続けてきた努力が、作品世界の中だけでなくプレイヤーの認識をも変え、最後の最後で報われるわけです。
いやー、もうね。見事なもんです。
最初は「学生で理事長ってどういう設定だよ無理あるだろ」と思っていても、この作品をプレイし終える頃には「風莉・・・お前なりに理事長であろうと頑張ってたな・・・すげぇよ」となってるわけです。
良く出来た作品ですよ本当に。
理事長の解任理由が「学園自体の成績が悪いから」そして何より「風莉の成績が悪いから」というのも良かった。
ここで「学生が理事長なんておかしい」みたいな理由で来られたりしたら「何を今更な事を言っているんだ」ってなります。
そういう感情、印象に比重を置いた理由ではなく、客観的な事実を理由として使う方が、その問題の解決への道筋が明確になりますからね。
「成績が悪い」というのは、全くもって当然の正当な理由付けです。
反論の余地がまるでない。
そしてそれに対する湊と風莉のアンサーが「学園全体の成績を上げる」「風莉の成績を上げる」なのも、それはもう清々しいぐらいの正面突破でこれまた痛快です。
湊と風莉がカップルなのではというゴシップ的な側面を強かに利用し生徒を扇動する湊くん、アジテーターの素質ありまくりですね。
西園寺の総帥、案外向いてるんじゃないでしょうか。
途中まで厳格な父親というイメージだった風莉のお父さんが実は娘にダダ甘というのも、一見するとお話のオチ、コメディ的な要素に見えて、その実「娘に理事長を任せる」なんていう無茶を押し通す理由付けになっているのも良いんですよね。
厳格な父親だったらそんな無茶やらせるわけ無いですから。
娘に甘いという設定がある事によって、その無理が通ります。
この作品の設定、状況に、必然性が生まれます。
一つ一つのキャラ付け、設定に、そうするだけの明確な理由、必然性が存在する。
これこそが、この作品の完成度を支えている大きな要因でしょう。
シナリオの話ばかりしてきましたが、作中冒頭シーンで得られる印象から考えると「西園寺 風莉」というキャラクターも凄く魅力的に化けたなと思います。
風莉、全体的に欲求がリアルと言いますか、すごく人間臭いキャラクターなんですよね。
湊くんが好き過ぎるが故の性癖の歪みとかはまさにそれで。
湊くんが異次元級に可愛いキャラクターである事を存分に活かすことでコメディ的な面白さに昇華させていますが、やってる事は完全に変質者のそれという。
こんなリアルな変態性持ってるヒロインなかなか居ませんよ。
また、リアルなのは性癖だけでは無くてですね。
というのも、自分がこの作品で一番好きなシーンが柚子√で湊の背中を押すために風莉が湊に告白するシーンでして。
このシーンはもう本当に情報量が凄くて。
風莉はずっと湊の事が好きで、湊に幸せになって欲しいわけですよ。
同時に、風莉にとって柚子は大事な友人で。これまた幸せになって欲しいわけです。
でも風莉自身は湊の事が好きなわけですから、湊と柚子が破局しかけているこの状況は風莉にとっては好都合以外の何物でもない。
それでもやっぱり湊には、柚子には、2人には幸せになって欲しい気持ちもちゃんとあって。
だからこそ、湊の背中を押すため、柚子を諦めさせないための告白。
ところが、ところがですよ。
この告白、風莉は間違いなく期待してるんですよ。
湊が自分の告白を受け入れてくれる事を。
柚子では無く自分を選んでくれる事を。
この告白のシーンで風莉が見せる「女の顔」がもうとにかく人間臭くて。
そりゃそうですよ。
ずっと湊のことが好きで好きで仕方が無くて、盗撮写真をファイリングするぐらいですから。
友人の幸せと自分の幸せが両立出来ない事を理解していて。
湊が幸せで居られるのは柚子の隣なんだと理解していて。
振られると分かっている、湊の背中を押すための告白なのに、それでもなお、どうしても期待をせずには居られない。
この矛盾が、葛藤が。
これが人間ですよ。
これこそが血の通ったキャラクターというものです。
単なる属性を詰め合わせた人形ではなく、作品世界の中を生きる「西園寺 風莉」という一人の人間が描かれる名シーンですよ。
そしてこの後、湊はちゃんと風莉を振って。
風莉は湊に振られて。
湊は柚子を追い掛ける決意をして、風莉は自身の失恋の悲しみを懸命に堪えながらそれを応援するわけです。
この西園寺風莉という女の格好良さと言ったらもう。
本当に良い女です。
・・・なんか湊くんをぶん殴りたくなってきました。
この√の話はこの辺りまでにしておきましょう。
主人公「飛鳥 湊」について
さて、このゲームを語る上でどうしても外せない存在と言えば勿論、大変特殊な主人公である湊くんでしょう。
まず立ち絵があります。
単独のCGも数枚あり、全編フルボイス、なんならエッチシーン中もボイス付き。
挙句の果てには専用のエッチシーンパッチまで存在すると来た。
作中のキャラクターも、見た目完璧、家事万能、勉強も出来るし何より良い子。本当に良い子。良い子すぎて怖い。
どこの超人だよと言いたくなるようなバケモンスペックですね。
こんなの惚れるに決まっているというか、ここまで来るとむしろ湊くんに惚れない理由が見当たらないといった具合でして。
この作品で最も滅茶苦茶な存在と言い切ってしまって問題無いでしょう。
ですがスペックは高くてもやはり学生、精神的に不安定な面も多く抱えています。
といいますか、天涯孤独になったばかりなんていう人生における一大事が過ぎ去ってすぐですから不安定も不安定、むしろこれでどっしり構えてたら逆に怖いです。
前述のように常に後ろめたさを抱えて生活していますし、本当の意味で心を許せる相手が周りに居ないというのもかなり精神的に厳しいんじゃないかなと思います。
何せ湊が男であることを唯一知っている風莉はあの調子ですからね。
寮の家事や雑務を一手に引き受けて居るのも、湊くんが持つ後ろめたさの裏返しで「役に立たなければいけない」という強迫観念に囚われている事は作中でも語られていました。
これ、上手いと思うんですよね。
プレイヤーに伝わってくる情報というのは基本的に主人公の主観情報が主になるので、その主観を提供する本人が無自覚な部分に関しては伝わりづらいんですよね。
湊くん本人は自分が強迫観念に囚われている事に無自覚で、だから地の文でも言及されない。
結果として、湊くんが抱える問題は常に作中で描かれ続けているのに、湊くんとプレイヤーにだけ見えない状態になっています。
この問題がプレイヤーに対して明かされ解決されるイベントこそが、共通√終盤、最後の山場の家出騒動ですね。
ここの騒動によって湊くんの心に恋愛をする余裕が生まれたというのはだいぶ上の方で話したと思いますが、同時にこの話は湊くんの「行動原理」をフォローする話にもなっているんですね。
いくら家事が趣味同然の感覚で出来るからって、あの寮で発生する家事全部を1人で抱え込むなんてのは正直言って狂人の類なんですよね。
普段の学園生活と並行して、朝は健啖家の柚子含め満足出来る量の朝食と昼食の準備、学園では新聞部を手伝うこともあり、放課後は掃除に洗濯、夕食の準備。
家事に疎い自分が想像しただけでも生活の圧迫が凄まじい。
これを自ら進んで引き受ける人、ありがたいですけど怖くないですか。
なんか、完璧超人ってコンセプトで作られたロボットみたいで。
エロゲにおいて「だいたいなんでも出来る完璧超人」みたいなキャラクターは散見されますが、それが出来る、可能である事と、それをやる、実行する事は別の話なんですよ。
それをやるからにはそれをやるだけの理由が無いと、シナリオ進行上便利に使えるアイテムみたいな大変違和感のあるキャラクター造形になりかねない。
湊くんはその辺だいぶギリギリを攻めているというか完璧超人過ぎるところはありますが、前述の「強迫観念」がこの行動の理由として上手く作用していて、このおかげで湊くんは「とってもすごい家事ロボット」から一転「精神的に不安定な一人の人間」に見えるようになるんですよ。
この「強迫観念」を、湊くんの主観で物語を描いていることを利用し共通√中ずっと描写しながらも隠し続けて、家出騒動で問題を表面化させて解決する。
この一連の流れは、今まで「完璧超人」のような人間味の薄い印象で捉えていた「飛鳥 湊」というキャラクターの人間性を描き底を深い物にしながらも、同時にヒロイン達との恋愛の切っ掛けを描いているという大変に器用なシーンというわけですね。
おかげで後ろに続く個別√も本当にすんなり入ってきます。
何せ土台が固まってますからね 。
この記事で土台って何回書いただろうね自分。
さてそんな湊くん、外見はもうどこからどう見ても完璧に美少女な訳ですが、地の文はまあそれなりに男の子です。
家事が趣味だったり、視点が完全に実家のオカンだったり、若干男の子っぽさが怪しい箇所もあるにはありますが、その辺はもう趣味嗜好の個人差なので。
湊くんの女装がバレなかった大きな要因は、天性の外見もそうですが、それよりも趣味嗜好の影響が強かったんじゃないかなとは思いますね。女子力が高過ぎる。
とはいえ、柚子曰く「視線が男の子っぽい」とのことで。
これはどちらかと言うと見破った柚子が凄いんですけども。
共通√中盤でひたすらムラムラするだけの話があったのは面白かったですね。
この話は絶対外せないだろうと。
普通のエロゲの男主人公でこれをされても誰も得をしないんですけど、湊くんはかなり特殊な主人公ですからね。
主人公がムラムラするだけのエピソードでエンターテイメントとして成立するのは若干日本の未来が不安になるような気もしますが、それについては見ないふりを決め込むとしまして。
湊くんの話に限らず、このゲームは全体的に18禁であることの強みを活かした設定やエピソードが多いのが良いですね。
面白い話なのに年齢制限のせいでポテンシャルを発揮出来ないなんてのは残念極まりないですから。
若干話が逸れましたが、色んな意味で魅力溢れる主人公だったなと。
総評
一目見て伝わる、作品内を彩る美麗で愛らしいビジュアル。
作品のあらすじと冒頭のシーンは最早出オチながら、その背景を作中でしっかりと描き切るシナリオ。
人数は控えめながらも、しっかりとした魅力を持つヒロイン、サブキャラクター達。
見た目と女子力はヒロインよりもヒロインらしく、しかしキメる所はキメる男前の主人公。
一見すると癖が強い設定とは裏腹に、その中身は至ってシンプルにただただ「王道」を往く。
総じて、非常に完成度の高いゲームでした。
『オトメ*ドメイン』とても良い作品です。